JIA港地域会日本建築家協会 関東甲信越支部 港地域会

JIA港地域会 活動報告

第27回 平和と建築

第27回 MASセミナー
2018年3月17日(土)14:00~トーク、16:00~懇親会
日本建築家協会、JIA館1F建築家クラブ
報告者
今井 均

平和と建築

歴史を俯瞰して見ると世界のどこかで常に平和が脅かされている。平和を紡ぐものは何か? そのひとつに実は建築や美しい街並みがあることに気ずいて欲しい。その美が普遍的である時、それは民族や国境を越えた価値をもつものに至るということになる。そして更にひとりひとりがその美を創ることに何らかの形で参加する経験を持つ時、美は日常のものとなる。今の日本の社会で自身の家を「建てる」といった人生の貴重な機会を「購入する」ことにすりかえてしまっているひとがどれ程多くいることか、残念でならない。自身が参加して創ることの喜び、そのことによって飛躍的に創造することに関心が深まり、そのものを愛おしく思う、、こういった思いが平和につながっていくことになることに気ずいて欲しい。パリの街の美しさが独裁者から街と建築を守り更にヨーロッパを救ったという史実があるのだから、、。

大倉 冨美雄二都物語(大倉冨美雄

ニューヨークにいた1年余りは苦渋の連続だった。
着いて翌日、ポケットの15万だったかスリに奪われた。労働許可証だと思ったのは観光ビザだった。
海外の知識もなく、大学に呼ばれたわけでもなく、ろくな人脈もなく大都会に降り立った暴挙。
住んでいたのはクイーンズのエルムハーストだったが、こういう経験に始まるマンハッタンの冬の骨にまで滲みる寒さと寂しさは住んでみないと判らないだろう。NYは恨みの街となった。
ミラノに着いて、数日居た駅近くのペンショーネ(簡易長期宿泊所)からコルソ・マジェンタ(ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」がある教会の通り)付近に移った最初の朝のこと。緑の窓辺から小鳥のさえずりに目覚め、その静けさに言いようのない安心と至福を感じた。この時からミラノへの愛を感じた。そうだ、すでに春だったのだ。驚いたことに続いて、ここに住んでいる若い女性からトントンとドアを叩かれ、「こんにちわ!」と日本語で挨拶を受け狂喜した。ニチロ漁業のミラノ支店に勤めているんだとか。NYでは一切無いことだった。

「平和」って何だろう。住いとその街と住人が持つ、言いようのない雰囲気と自分の心情とは本来無関係のはずだ。実際、ミラノに住んで「平和」を満喫したのだが、これは自分が感じる「平和」であって、誰でもがその街や界隈を「平和」と感ずるわけではないだろう。でも、そうではない。逆に、その窓からの眺め、くつろぎへの至近距離感、人との出会い方と見え方、街づくりの在り方によって「平和」を感じるのも確かだろう。ネット時代とは縁のない1972年のことだが、二都に住んでの落差はこれを教えてくれた。

黒木正郎平和な国の平和な建築(黒木正郎

建築を学び始めて間もなく四十年になるのですが、建築と平和の関係を考えたことなど一度もなかったので大変良い脳トレになりました。平和があまりにも私の日常の一部分だからなのでしょう。

世界経済が一体化した文明社会では、社会正義の価値観は概ね共通しているようです。しかしながら平和と勝利という対立概念では、それらの価値の優先順位のような、思想というより肌感覚に帰属する価値観は未だに乖離があるように感じます。

日本人は人間同士が戦う事に対して極端な抵抗感があるようで、平和は絶対正義と信じている人が大半ではないでしょうか。どんなに相容れない相手でも、戦うのではなく交渉するか、戦うまでもなく優劣が決していることを望むように。でもそれは世界では少数派です。

日本の文明は戦いが極めて少なく前時代の成果を継承し続ける事を価値とするもので、人類史的にも珍しい部類に属すると聞きます。これは、人間同士が戦うヒマなど無いくらい、ひたすら巨大な自然災害に立ち向かい続けなければならなかったからだそうです。災害のある文明はそれが無い文明よりも発展すると言われます。災害は復興の努力をさせますし、それが出来ない社会は文明となる以前に滅亡するからです。過去を消去しない事を正義と確信して言えるだけのものが、建築人として残せたら幸福ですよね。

田口知子都市のみえない力(田口知子

今回のテーマを受け、まずは平和とは何か考えました。平和とは、単に戦争が無い状態ではない。建築や環境が、人に安らぎを与えるものになる、ということだという前提で話をしました。
単体の建築がそのような環境を提供することがある。そのとき思いだしたのが、スイスの建築家ピーター・ズントーの設計した聖ベネディクト教会を訪問したときのことだ。そこに安らぎと誇りのようなものが表現されているように感じた。

一方、巨視的に見ると、人が住む環境として、古くからある、共有する記憶によって人がつながっていることが大切だと思う。神社の境内、教会、巨木やがけ、雑木林、ずっとそこにあって、だれのものでもない場所、美しいもの、だれもを受け入れてくれる場所、そういう場所を保つことだ。資本主義の有用性から取り残されたそのような場所が、実はとても大きな役割を果たしてくれるように思う。
細部に気を配った、ていねいなディテール、地元の素材、普遍的な美しさを感じる形態は、平和への道を作り出すと思う。さらに、高齢者、障害者、動植物等に対する寛容なシステム、共存する仕組みを形成するビジョンを持った町は、平和な社会を体現しているのだと思う。そういう意味で「シェア金沢」という社会福祉法人の作った町はとても興味深い。いつか訪問してみたいと思う。

会場からの感想のなかである参加者の感想が印象に残った。「マンションや建売など何度も家を買って引っ越ししたが、最後に建築家に家を建ててもらった。その家を建てたとき、やっと自分を取り戻した気がしたんです。」と。建築家の仕事がそのようなものであるなら、建築は平和に貢献できるような気がする。

連健夫集いの場に見る平和と建築(連健夫

私は平和を家族や友人と一緒に楽しく団らんをしている時に感じます。楽しい集いは気持ちイイ場所でないとそうはならないと考えます。公園のカフェで皆が楽しんでいるシーンですが、これはカフェが少し上がった所に位置し、眺めが良くて気持ちのイイ場所です。英国に居た時、友人の家のテラスで食事をしたのですが、そこにはパーゴラがあり木漏れ日がとても気持ちのイイ場所でした。英国郊外の屋敷で行われた結婚式に出席したことがあるのですが、広い敷地の様々な場を上手く使って、メイン会場としての仮設テント、周囲には宿泊用テント、豪華版の仮設トイレが配され、出席者は様々な場所でめでたい場を楽しんでいます。庭と仮設建築がうまく融合していました。当方が設計した小淵沢のプレゲンス邸は山の地形に合わせて2棟で囲みを作り、庭とウッドデッキの空間がバーベキューを楽しむ、うってつけの場になっています。つまり、人が集うことを意識して設計したわけです。赤坂の集合住宅の事例では、路地側の1~2階を店舗にすることにより、外廊下が路地のギャラリー的な空間となり、ジャズフェスティバルなどのイベント時には、この路地空間は賑わい、皆の笑顔でいっぱいになります。この笑顔に平和を感じる中で、「建築は平和に寄与することができる」と、再認識します。

武田有左新しい価値の創造によって生まれる真の共存/共栄(武田有左

30年に渡り事業者と地元住民間の厳しい紛争が続いたプロジェクトを担当した経験から・・・平和を考える。

敷地周辺には、良好な住環境を守ろうと大型ビル建設反対の幟が林立し、近隣説明会では住民の罵声が飛び交いペットボトルまでが投げ突けられる有様だった。事業者の一部からは、工事車両の進入を阻止する反対派住民のピケを強引に突破してでも、工事を強行すべきとの過激な意見も聞かれた。しかし、辛抱強く住民達との地道な話し合いを続け、その要望を汲み上げ、時には利潤ばかりを追い求める事業者に対しては全く新しい視点での空間創りを提示する中、次第に状況は好転して行った。

竣工時には、不況にも拘わらず有力テナントが即決し喜ぶ事業者だけではなく、自分達の街に建ち上がった新しい建物を温かく迎え入れようとする地元住民達の明るい笑顔が並んだ。

ここで考えた事は、小さなリンゴを卑しく奪い合う状況に対し、そのリンゴを甘く大きく育て上げ、仲良く分かち合えるシチュエーションを生み出すことが建築家の役割であり、その様なパラダイムシフトを起こさせる思考こそが、真の平和をもたらすのではないかと言うことだった。

今回のMASセミナーでは、「平和と建築」と言うことで考えさせられた・・・「新しい価値の創造によって生まれる真の共存/共栄」

学生時代、建築を学びに初めて訪れたヨーロッパで一番感動したことは、未だ今のようなEUの体制ではなかったものの、いとも簡単に国境を越えて隣の国に渡ることが出来るということでした。そこでは、互いに言葉の違う人々が仲良くにこやかに日常の延長として交流をしている姿に触れ、大きく感動をしたことを思い出す。

歴史の教科書では互いの領土を奪い合っていたと習った国々の人々が、こうして互いの理解を深め合い、そして互いを尊重し活かし合うことで自らの繁栄に繋がる・・・・当時20代の学生だった私が、これこそが本当の意味での平和に繋がることなのだと、改めて実感させられた経験だった。

村上晶子平和とは?建築家の職能とは?(村上晶子

建築は人と人の関係、人と社会を形つくるものです。
私は、日頃マザー・テレサの修道会-Missionaries of  Charityの山谷の修道院の設計に携わったことがあります。彼女たちは世界の最底辺の人々に寄り添い、手をさしのべる活動を献身的に、微笑の中で行っています。そこは修道院とはよばず“山谷の家”と呼び、奉仕=サービスのためのたてものをつくりました。上には修道士のための質素な居室と小さな聖堂があります。
その時の経験としてカルカッタのマザーの手による“死を待つ人の家”と修道院にうかがいました。彼女たちはカルカッタの駅に毎日でかけて、打ち捨てられた人たちをみつけ、抱えてもどってきます。体をきれいに拭いて清潔な布でくるみ、神の家で平和のうちにみとるという活動です。その招き入れる“家”こそが最期の居場所であり、丁寧な建築が必要とされていることを感じました。外の喧騒や匂いは凄まじいエネルギーがありますが、内部は明るく清潔で静かな時間が流れていました。そこの聖堂で、最後列にちいさな修道女が頭を深くたれて祈ってました。朝も夕べもいつもです。それがマザーの生前の姿であったことにあとで気付きましたが、その時は安らぎの中の永遠の平和を感じました。今回のタイトルを聞いたときに最初にその光景とマザーがカードに記して配っていた言葉を思いました。マザーが言う平和とは、愛と奉仕に立脚した人間の姿です。

沈黙の実りは祈り・祈りの実りは信仰・信仰の実りは愛
愛の実りは奉仕・奉仕の実りは平和

また、AIA(アメリカ建築家協会)の宣言も重ねて思いをはせました。私たち建築家の職能・建築家の使命が示されています。「私たち建築家がどのような処、どのような時にあっても神の作り給うたこの地上の上に人々の環境をつくるというこの神聖な任務を、立派に果たすことができるようにそれぞれ信ずる神に助けを求めて祈りましょう」ここには私たちは傲慢にものをつくってはいけない。目に見えない何かにてらして社会の中に奉仕することが社会の平和を紡ぐことになるという思いがあります。

今井均日常の仕事のなかに可能性をみいだす(今井均

第27回MASは久しぶりに私が担当なので、昨今の世界的に不安定な世情を反映して、平和と建築との関係がどう位置ずけられるか、考えてみたいということをテーマとしてみました。というのも新聞紙上など一般に目にするメディアで平和に繋がる問題が各方面の識者から多数発信されていますが、どういうわけか普段から自身の職能においては積極的な発言はあるものの、このすべてに関わる平和に関することについては私の知る限り、著名な建築家からの発信は記憶にありません。唯一、新国立競技場問題で建築家の槙文彦さんが大きな視点で建築と環境を具体的に、そして強く発言されたことが直接的ではないにしろ、建築が平和に繋がることを感じさせてせてくれた最近の事例と思います。さて、建築家が日常のなかで平和に寄与できるとすれば、建築するという過程とその結果社会のなかに実存するということに対してどう関わるかということでしょう。
卑しくも建築家を自認する以上、自身の仕事としての責任について常に筋を通したものでありたいという思いがあります。クライアントの意向は充分反映しながらも建築家としての責任を少なからず通して、周辺の関係者と建設のプロセスを共にして行くことが具体的な平和への萌芽となり、またそれこそが僕らのミッションではないでしょうか。

当日の模様

MAS第27回の模様1 MAS第27回の模様2 MAS第27回の模様3 MAS第27回の模様4

アンケート

ご参加された皆様、アンケートへご協力いただき誠にありがとうございました。
ご協力いただいた方の中から一部をご紹介させていただきます。

第27回アンケート1
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
来るまで見当もつきませんでした・・・
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
AIA宣言に感動しました。すばらしいですね。
その他、今回のセミナーで感じられたことを、ご自由にお書きください。
どういう感じか見当もつきませんでしたが、とても楽しかったです。
今後、セミナーで取り上げてほしいテーマがありましたらご記入ください。
国家と建築。個人と建築。
今後のセミナーについて、以下のどれかに○をつけてください。
また参加したい
第27回アンケート2
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
無回答
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
建築も結局は人がつくるもの。人に奉仕させるもの。ただ、それを超えて建築が影響を与える面があること認識。
その他、今回のセミナーで感じられたことを、ご自由にお書きください。
愛と欲望の折り合いをどうつけるべきか
今後、セミナーで取り上げてほしいテーマがありましたらご記入ください。
無回答
今後のセミナーについて、以下のどれかに○をつけてください。
また参加したい
第27回アンケート3
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
多様な意見を伺うこと
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
武田さんの「価値を高めて分かち合う創造」の考え。
その他、今回のセミナーで感じられたことを、ご自由にお書きください。
自由に発言できる場づくりは、いつも良い。
今後、セミナーで取り上げてほしいテーマがありましたらご記入ください。
学校
今後のセミナーについて、以下のどれかに○をつけてください。
また参加したい
第27回アンケート4
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
おもしろい話
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
「奉仕」という言葉。
その他、今回のセミナーで感じられたことを、ご自由にお書きください。
奉仕って何だ!?とても幅広く用いられると思った。
今後、セミナーで取り上げてほしいテーマがありましたらご記入ください。
図書館
今後のセミナーについて、以下のどれかに○をつけてください。
また参加したい

関連資料(PDF)

  • A4版(セミナー概要、アクセス方法など)
  • A3版(当日講演するテーマについて建築家からのメッセージ)

関連リンク


PAGE TOP

※当サイトで使用している画像等を、許可なしに掲載したり、著作権者の承諾なしに複製等をすることはご遠慮ください。
© JIA 日本建築家協会 関東甲信越支部 港地域会