JIA港地域会日本建築家協会 関東甲信越支部 港地域会

JIA港地域会 活動報告

第26回 あの人を案内したい港区

第26回 MASセミナー
2017年11月18日(土)14:00~トーク、16:00~懇親会
日本建築家協会、JIA館1F建築家クラブ
報告者
黒木 正郎

あのひとを案内できる建築家

観光地としての日本のよさは、歴史が長い・古いものが多い、と言うだけではなく、その歴史・過去の時代がそのまま途切れずに現代につながっていることにあるのだと聞きます。とおい世界史の記憶を呼び覚ましてみても、ヨーロッパにはルネサンス以前と同じ場所に同じ人が住み、文明を繋いでいる地域はありません。ほぼすべての地域が互いに征服をし合って、すなわち過去の他者の文化に自らのものを上書きして未来に申し送っているのです。東南アジアも中国も同じです。

それをつくった人たちのことがわからない文化、これは「遺跡」に代表されるもので、都市も建築物も日本以外の文明圏ではほぼすべて「遺跡」を継承して現在の文明を成立させています。対して日本の文明は、過去の担い手のことがすべてわかっていることが前提です。飛鳥時代以降でも1500年、江戸城開闢からすでに560年たっています。これだけ長い期間、過去からの記憶を繋いでいる文明はほかにありません。東京と言う巨大都市ですら、500年以上の記憶を直系の子孫がつないでいる、そのこと自体が人類史の奇跡だといいます。

記憶を繋いでいまに渡されて来ることを「伝世」といいます。骨董品ではなく「伝世品」です。しかし明らかな美術品ではない道や構造物などは、他者にはそこに塗り重ねられた物語を語れる人がいてはじめてそのものの重さがわかることになります。その語り部は、建築家、以外にいないでしょう。骨董品に目利きがいるように、伝世品にも目利きが必要で、建築家は地域の、東京の、私たちの文明の目利きの役を担うべきひとたちなのではないかと考えています。

田口知子港区のエアポケット(田口知子

港区三田にある綱町倶楽部に周辺には樹齢数百年の巨木があります。野鳥の声を聴きながらジョギングをするのが楽しみで、よくその前を走っていました。このような自然を感じる庭園が港区にはあちこちにあります。今回、そのような場所を「エアポケット」と呼んで探求していたら中沢新一氏の著書「アースダイバー」を思い出しました。東京の洪積台地と沖積台地の分布、その境目は岬のような場所で、そこに神社や古墳、貝塚が集中しいるというのです。巨木や神社、崖を探索しながら太古の昔を想像するのは楽しいことです。芝公園の滝の流れる森や、愛宕山神社など、港区にある不思議な空間をめぐるコースを紹介しました。東京のど真ん中にあって、巨木や宗教施設のような人智を超える自然は、人間の心に安定や豊かさ、信頼の心を育てる拠り所になるのではと思いました。

武田有左都会のネコ道・・・(武田有左

Googleストリートビューを使えば、世界の主要都市の街角を自由に散策できる今日ですが、港区には未だにストリートビューにアップされない沢山の小道が散在していることは余り知られてないのではないでしょうか。ストリートビューカメラが入れない狭く急峻な坂道や所有権が不明な私道・・・それも、地元に住む人達が日常的に利用する地域に根ざす便利な生活道路だったりするから驚きます。
歴史的には、海辺の丘陵地に形成された高輪の街・・・その高低差の大きい地形的制約から自然発生的に生まれた急勾配の路地や、地域の人々に開放されて来たお寺の境内を横切る小道跡など、ストリートビューにアップされない不思議な光景を「港区=都会的でオシャレ」と考える人達にも眺めて貰いたいと思います。
行き止まり路地や、狭く急峻な坂・階段状通路など、建築家にとっては、減災的見地からも眺めて見る必要が有るかも知れません。

村上晶子子供たちに紹介したい小さくてもきらりと光る教会堂建築(村上晶子

港区には多くの外国人、特にキリスト教圏の方々が交流人口も含めて存在します。教会はヨーロッパ社会においては、使命であり文化の根幹です。日本の教会はもう少し緩いつながりで、むしろミッションスクールも影響し、明治維新以降の洋館建築の翼を担ってきたのもキリスト教関連施設といえるでしょう。港区にはそのようなことも影響してとても魅力的な教会を見ることができます。
ミッションスクールは明治学院や聖心女子大、東洋英和が有名です。カトリック教会は高輪教会、麻布教会 、フランシスカン・チャペル・センター等があります。フランシスカン・チャペルセンターは六本木にあり、最初はフランシスコ会宣教師による日本語学校でしたが、周囲の大使館や駐留軍の要請で自然発生的に英語のミサをするようになり教会となったものです。ここは英語を話す信者を対象にした特殊な教会で、 30数カ国、約1200名程が集まり、縮小した国連とも言われています。また、日本聖公会ののHPをみると同じ飯倉の住所に2つの教会があります。聖オルバン教会と聖アンデレ教会です。オルバンはアントニン・レイモンド設計の木造で、東京教区で唯一 礼拝のすべてを英語出行っていて駐日・在日外国人の子どもの幼稚園も併設されています。アンデレは日本聖公会の東京教区の主教座聖堂です。プロテスタントも港区には重厚な教会が多々あります。麻布の安藤記念教会はメソジスト派でステンドグラスが綺麗です。芝教会) は虎の門ヒルズの再開発でおしまれつつ解体されてしまいましたが間野貞吉設計で戦災にも免れた強固な鉄筋コンクリート造でした。霊南坂教会は辰野金吾設計の赤レンガ会堂のデザインを踏襲して1985に現会堂になりました。他にも赤坂教会、鳥居坂教会、高輪教会、六本木ルーテル教会など枚挙にいとまないのですが、よく調べていくと芝・赤坂・麻布地区に多く存在しています。建築学的にみても価値のある建物が多いので、こどもたちを是非案内したいと思うところです。

今井均坂と石垣から想う去年の道(今井均

子供の頃の日常的な体験は情緒性に影響することは確かで、なかでも皆が共有出来る歴史的遺構はその意味で特に大切にしたいものと思う。こういった意識は様々な社会構成のなかのトップの人達こそがまず意識していて欲しいものだが歴史や美術といったものが現代社会のなかで軽んじられていることを考えると今後が心配になる。もっとも歴史などは知識ではなくまず感じることが大事だ思うのだがスマホに夢中ですぐ近くにある遺構にさえ気づかないとしたら問題であろう。今回、僕が取り上げた品川駅前を通る京浜一号線から桜田通りを横切り目黒通りに至る坂道はアップダウンの連続だがその両側にある石垣は地元をよく知る人に限らず歴史的遺構として是非残しておきたいものである。見事な安山岩の石垣は地形と共にこれからも残しておいてほいしいと思うが既に60年(在住)の間にそのいくつかは崩されマンションなどに変わった。背丈の何倍もあった石垣が夫々の都合で壊されていくのは止めようがない。歴史的な価値のある建築も大事だが地形に沿って築かれた石垣だからこその意味をどう評価するか、まずは周辺の子供たちを連れてこのアップダウンを歩いてみたい。

黒木正郎東京でいちばん美しい街路を作れないか。(黒木正郎

東京都市計画街路補助7号線。起点は渋谷区の東三丁目。東京ならではの高級住宅街の中を抜け、日赤下から麻布の丘にあがり、東京ローンテニスクラブを右に見て仙台坂を下り二の橋へ。それから三田綱町の丘に上がると右手にオーストラリア大使館、綱町三井倶楽部と簡易保険局庁舎に挟まれた空間がこの道のサミットです。この道は都市計画街路ですが、通る街並みは政治苦した住宅街。大使館や政府の建物、やんごとなき方のための施設などをゆっくりと結び付けています。

この道を「東京でいちばん美しい街路」にできないか。

片側一車線、ゆったりした歩道と街路樹、少ない交通量、沿道に残る歴史的建造物と手付かずのまま半世紀を過ごして育った大木。まだ高層建築物の建っていない新しい通り。大きなもの、まっすぐなもの、あたらしいものを作ることだけが都市計画の目的ではないはずです。

地域の知恵と心意気を見せられる都市計画にしたいと思っています。

大倉 冨美雄日本人の文化度を探るバロメーター(大倉冨美雄

東京の道路計画は戦後まもなく行われ、廃墟と化した都心の再生に向けては、行政側としては遮るものは無かったと推測されます。特に最近、急浮上している環状4号線(東京都市計画道路)は、放っておかれた開発のお陰でと言うべきか、設定当時の環境事情とは大きく異なっているでしょう。建設を避けてきた土地の多くが公園や駐車場などになり、大きな樹木が育ち、都心にはあり得ないような自然が近く、住みやすい環境になっています。ここに幅員25~30mの4車線道路を造るということで、今年初めから「計画段階環境影響評価手続き」が始まっています。
現在の環境価値への民意の深まりはこの計画を問題とし、多くの人が意見を述べていますが、都が「これからの日本の成長を牽引する国際交流拠点・品川」とする将来像を掲げており、油断は出来ません。特にJR品川駅周辺は、新駅の建設、リニア新幹線の始発駅、港南地区の再開発(例えば羽田と都心を結ぶフェリーの中継地点など)が重なり、湾岸地区から内陸沿いに赤坂・六本木方面に足を延ばす鍵の道路と捉えているため実行比重は相当高くなっています。新港南橋交差点(旧海岸通り)からJR線、京急線を跨いで丘状の白金台交差点までの約2.1キロのため、トンネルの提案も出ていますが、各交差点でのレベル差のある迂回路設置だけでもスペースを取り過ぎるでしょう。
将来の日本のために、多くの知識人や外国人に見て貰って、日本人の文化度について意見を集めたいと思います。

当日の模様

MAS第26回の模様1 MAS第26回の模様2 MAS第26回の模様3 MAS第26回の模様4

アンケート

ご参加された皆様、アンケートへご協力いただき誠にありがとうございました。
ご協力いただいた方の中から一部をご紹介させていただきます。

26回アンケート1
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
どのように街の魅力を発信していくか、そのきっかけ。
都心でのコミュニティーのあり方
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
港区の持つ街の魅力を強く感じました。
歴史と現代のコントラスト。
その他、今回のセミナーで感じられたことを、ご自由にお書きください。
とても内容の濃いものでした。
今後、セミナーで取り上げてほしいテーマがありましたらご記入ください。
無回答
今後のセミナーについて、以下のどれかに○をつけてください。
また参加したい
26回アンケート2
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
街歩きが好きで港区の品川に近い辺りをたまに歩きますがお勧めの地区や歩き方の指南等があれば。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
簡易保険局の問題と行く末。
教会建築、石垣の重要性。
知られざる道 等々。どのお話も非常に興味深く、役所絡みの奥歯にもののはさまった話など足下にも及ばない!
その他、今回のセミナーで感じられたことを、ご自由にお書きください。
こんな有意義な話は多くの方に参加して聴いてほしい。もっと広報をされたら良いと思いました。
今後、セミナーで取り上げてほしいテーマがありましたらご記入ください。
「散策地図を作ろう」等のワークショップ
今後のセミナーについて、以下のどれかに○をつけてください。
また参加したい

関連資料(PDF)

  • A4版(セミナー概要、アクセス方法など)
  • A3版(当日講演するテーマについて建築家からのメッセージ)

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