JIA港地域会日本建築家協会 関東甲信越支部 港地域会

JIA港地域会 活動報告

第23回 2020東京オリンピック・パラリンピックをきっかけに何ができるのか?

第23回 MASセミナー
2016年10月15日(土)14:00~トーク、16:00~懇親会
日本建築家協会、JIA館1F建築家クラブ
報告者
連健夫

今回のテーマは「2020東京オリンピック・パラリンピックをきっかけに何ができるのか?」です。オリンピックレガシーという言葉がTVや新聞で語られるようになってきました。これはオリンピックの良い遺産(レガシー)を開催都市に残すことを推進するという意味ですが、ロンドンオリンピックでは、地域の街づくり寄与する計画を目指し成功しました。さて東京ではどうでしょうか?何が建設されるのかといったハードばかりが注目されているような気がします。2020東京をきっかけに何ができるのかを港地域会のメンバーそれぞれの考えを手がかりにディスカッションしましょう!

村上晶子「熟成の社会・減築の視点で想う」(村上晶子

はじめに:Olympic Legacyを共通理解する
2002年11月に発せられた「オリンピック競技大会のよい遺産(レガシー)を開催都市ならびに開催国に残すことを推進する」第2項「IOCの使命と役割」には「長期にわたる、特にポジティブな影響」として、各種の施設やインフラの整備、スポーツ振興を通して、生活の利便性が高まり、人々の暮らしにさまざまな影響を与えることが結果的に社会に生み出される持続的な効果を生むとしています。そこには、スポーツ、社会、環境、都市、経済の5分野が挙げられています。

レガシーの概念理解を深める際に重要な3つの軸については、三菱総合研究所が作成した理解しやすい図があります。これを見ると計画的且つ、形あるポジティブなものこそオリンピックレガシーであることが示されています。

村上 資料1
出典:Gratton, C. & Preuss, H.(2008) Maximizing Olympic impacts by building up legacies. The International Journal of the History of Sport 25(14),
1922-1938 より三菱総合研究所が作成

さて、1964年の東京大会のレガシーを挙げてみます。東海道新幹線、体育の日の制定、国立競技場、首都高速道路の開通が代表的なものです。新幹線は日本の大動脈となりましたが、他はどうでしょう?
東京での2度目のオリンピックは上昇志向の50年前とは状況が違います。突貫で勢いよく造られたものを、成熟した都市の目線で見直すこと、減築の発想が今回のオリンピックレガシーとなるのではないかと考えます。都市環境を構成する高速道路と電柱の2点に焦点をあててみます。 当時は未来的な憧れだった首都高速道路は、制約の多い都市部で創られたため、川の上空を塞ぐことになりました。今では首都高の下は暗い児童公園や怪獣のような橋脚の下を人々が行きかう姿が散見されます。

村上 資料2

首都高の地下化は途方もないコストがかかりますので、外環道ができた今、都心部の首都高だけでも、この機会に廃止できるのではないかが第一の思いです。

廃止したい第二番目の電柱に関しては、小池都知事が前から提唱している無電柱化民間プロジェクトを紹介させていただきます。日本には3500万本の電柱があり、毎年7万本も増えています。日本の無電柱化は諸外国に比べ進んでいない状況であることを7月10日から公式サイトが開設されています。せめて、今できる活動から始められたらと思います。 この絵はこのプロジェクトのイメージポスターです。葛飾北斎「富嶽三十六景」「凱風快晴」に電柱と電線がかかっている日本の風景ですが、妙な魅力があるのが逆効果とも言われていますが・・。

村上 資料3

黒木正郎「MASセミナーの感想」(黒木正郎

初参加のMASセミナーでしたが、多くの方の多様な意見を出し合うことと、そこから共通する方向性を見つけ出すことの重要さと難しさを感じました。よく日本人は合意形成が下手だといわれ、その理由としては「空気を読んで」行動するからいざ議論による論理の積み上げで合意形成をしようとすると、意見の核心も目標の優先順位もぼやけてしまう、という実態をさしているようです。
今回、異なるテーマ(景観と防災とか)についても全く異なる視点から同じ目標(電線地中化など)が出てくることが明示されたことは収穫でした。逆に同テーマから異なる目標が演繹されることも出てくるかもしれません。それらの中から次の行動に展開するものを選ぶ必要がありますが、それが公益を担務する専門家の責任になるということですね。
2020年のレガシーは、建造物ではなく都市構造、運動論ではなく自己運動する社会システムでありたいと思います。「空気を読むこと」に対する批判は日本人によってなされているものが多いようですが、海外の方からはこれは合意形成のための闘争や間違いを最小限に収めることのできるきわめて合理的な社会関係資本であると評価されているとも聞きます。事前復興も都市景観も観光振興も同じ文脈の中で、当たり前の判断基準に昇華されることが理想です。

大倉冨美雄「ヒューマン・レガシーへの舵切りを」(大倉冨美雄

2020 年までに何が出来るかというと、ハード(建築などの耐久構造物)のレガシーとしてはほとんど何も残せないだろう。国民がハードとしてのオリンピックに飽きているし、東京一極集中の手助けみたいなことにも嫌気がさしているからだ。で、ソフトとしては、地域の景観の静かな美しさや街路の使いやすさのようなものをグレード・アップすることかもしれない。
前者は、植栽・緑化、地域性の強調、など。後者は、自転車走行路の拡張整備やフリー・ライド(乗り捨て)の普及、高齢者のためのバリアー・フリー化、サインの解りやすさや多設化など。都バスなどもっと乗りやすく使いやすいものに。その他、これから気候変動のせいで夏が物凄く暑くなることを考えると、街路シェルターの整備なども意味を持ってくる。
この年までに東京に超ド級の天災が起らないことを願って、出来ることをやる必要もある。

大倉 資料1 大倉 資料2

宮田多津夫「街なかにスポーツ公園を」 (宮田多津夫

日本の街が管理され始めたのはいつ頃からか。バブルの前、昭和の時代はどの町にも空き地 が目立ち、こどもの遊び場や草野球の場があった。そんな粗末な場から逞しく育っていったアスリートがいた。アスリートは幼少時の体験が重要であり、小さいこどもがスポーツに触れアスリートの夢を描く。ときから触れる環境を育てていきたいと考えている。今ではその大事な育成の場が、ビルやコインパーキングに変わり、街に空き地がなくなってしまった。
都市公園でも状況は変わらない。キャッチボールやサッカーの真似事すら立て看板で禁止している。そこで、レガシーとして、スポーツ公園を街に取り戻したい。再開発ビルの足元にある公開空地でもいい。自由な場を残したい。親子で草野球などスポーツができる自由な 空間を取り戻すために。

田口知子「オリンピックをきっかけに空き家利用の地域拠点を作る」(田口知子

今、東京では80万戸の空き家があると言われており、そのスペースの有効活用をオリンピックにからめてできないかと考えました。オリンピック開催時には、年間4000万人の観光客が訪れると試算されており、ホテルなどの許容量が2000万人程度。不足分をカバーするため、民泊を活用するとよい、というアイデアがあります。AirbnbというSNSのサイトのおかげで誰でも民泊を手軽に実現できるようになり、利用者が急速に広がっています。
しかし、個人で行う民泊は、マナーの問題や管理の難しさなどで近隣トラブルにつながることも少なくありません。
民泊には、人を招くというポジティブなメンタリティと、自宅を使って小さな経済を発生させるという可能性を秘めています。そのことを、一人でやるのではなく、地域で行うのはどうでしょう?自分が今空き家を利用した「オフグリッドハウス」というプロジェクトに参加しています。空き家を利用して、地域の防災拠点、コミュニティーの拠点を作る、というもので、オリンピックの開催にあわせて、このような拠点をあちこちに整えれば、民泊を企画する地域のコアになったり、観光案内所になったりと、オリンピック時の観光客にサービスを提供できますし、オリンピック終了後も町の自治を育み、まちづくり拠点として活用できます。住民が地域拠点を運営でき、小さな経済を生む空き家の活用法に、未来の町づくりの可能性を感じます。

田口 資料1 田口 資料2

連健夫「ハードと共にソフトにおけるバリアフリーの街を作ろう」(連健夫

以前、ある大学で「バリアフリー建築論」という授業を担当していた時に体験学習をしたことがあります。学生は街には、階段や段差など様々なハードなバリアーがあることを理解すると共に、思いやりやマナー欠如などのソフトなバリアーがあることに気づきます。例えば、バスに車椅子で乗った時に、乗客から「こんな忙しい時に乗るなんて・・・」といった言葉を聞くとか、車椅子の横を猛スピードで自転車が通ってヒヤツとした経験などです。心のバリアフリーという視点が大切だと思います。
英国にはCABE(建築・まちづくり機構)という第三者機関があり、建築許可に必要なデザインレビューを実施しています。そこでは、誰でもが排除されずに利用できるというインクルーシブデザインが大切にされています。ロンドンオリンピック・パラリンピックの施設整備においてこれが基本コンセプトでした。
国交省「高齢者・障害者の円滑な移動に配慮した建築設計のあり方に関する検討会」に委員として関わっているのですが、この議論の中でも心のバリアフリーについての話がありました。
ハードと共にソフトにおけるバリアフリーの街づくりに、建築家として少しでもお役に立てばと考えています。

連 資料1 連 資料2 連 資料3

武田有左「ツーリストに優しい街を作ろう・・・街中にちょっと腰を下ろせる場の創設」(武田有左

オリンピック開催の最大の効用は、世界の国々から沢山の人々が東京の街に集うこと・・・この国を知ってもらうことで、国境を超えた人と人の共感が生まれる事だと私は考えます。 半世紀前とは違いモノに溢れかえるこの街にも、ツーリスト目線に立った時には、未だ未だ足りないモノが残されているように思います。例えば、世界中から人々が集うN.Y.では、ストリートの傍らに腰掛けて、疲れた足を休ませながら、街並みや街行く人々を眺めることができるチョットした仕掛け創りが街のあちらこちら見うけられます。
同じ街を歩いていても日頃は気が付かない事ですが、デイパックを背負って街を探索して歩くツーリストにとっては、その道すがら、カメラの交換レンズをバッグの中から取り出したり、次は何処に向かおうかなとMAPやスマホ・タブレットを眺めたりするために、ちょっと腰を下ろせるスポットが街のインフラとして、そこここに備えられていることは、とても有り難いことなのです。
セミナーに参加をされた方からの提案である、一般区民の寄付によるサイン入りベンチの設置案については、何とか積極的に実現化して行けないものかと考えます。

懇親会

懇親会風景

アンケート

ご参加された皆様、アンケートへご協力いただき誠にありがとうございました。
ご協力いただいた方の中から一部をご紹介させていただきます。

セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
どんなご意見が聞かれるのかな〜という興味があった。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
日本人の常識は必ずしも世界の人々には通用しない事を痛感してるので、とても難しいと感じます。
その他、今回のセミナーで感じられたことを、ご自由にお書きください。
色々な考え方を聞けるので楽しいです。
今後、セミナーで取り上げてほしいテーマがありましたらご記入ください。
無回答
今後のセミナーについて、以下のどれかに○をつけてください。
また参加したい
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
知らない世界の人(建築家の方)の話を聞いてみたかった。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
電柱と災害の話が興味深かった。
その他、今回のセミナーで感じられたことを、ご自由にお書きください。
色々な事を知れて面白かったです。
今後、セミナーで取り上げてほしいテーマがありましたらご記入ください。
仮設住宅はもっと良くならないのか?(住みやすく)
今後のセミナーについて、以下のどれかに○をつけてください。
どちらでもない

関連資料(PDF)

  • A4版(セミナー概要、アクセス方法など)
  • A3版(当日講演するテーマについて建築家からのメッセージ)

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