JIA港地域会日本建築家協会 関東甲信越支部 港地域会

JIA港地域会 活動報告

第21回 日本人的メンタリティとは?

第21回 MASセミナー
2016年3月5日(土)14:00~トーク、16:00~懇親会
日本建築家協会、JIA館1F建築家クラブ
報告者
田口 知子
第21回 MAS

「日本人的メンタリティとは?」という今回のタイトルは、過去のMASセミナーの参加者によるアンケート結果から生まれました。メンタリティといえば人の行動や思考の背景にある心理的状態のことであり、個人の内面の問題です。しかし、「日本人的」というときには日本人が共有している意識、価値観の体系に関わっており、それが町や建築のあり方にも深く影響を与えているのではと思われます。このテーマは歴史や国民性にかかわるもので、あまりに壮大かとも思いましたが、日常的な体験を通した切り口で語ることができるテーマでもあり「皆で一緒に考える」というこのセミナーの主旨にあっていて興味深いと思います。

田口知子「鳥獣戯画に見る日本人的メンタリティ」(田口知子

日本人的メンタリティを考えるためには、日本人が共有している歴史を振り返る必要があると感じました。日本人のメンタリティは、長い歴史の中で、特異な断層を持っていると感じます。明治維新と太平洋戦争、そして東日本大震災は、日本人が今の時点持っているメンタリティに少なからぬ影響を与えていると思います。明治維新とともに欧米の文化を大量に取り入れ、大戦で国土の喪失を経験し、高齢化社会を前にして東日本大震災に見舞われる、その大きな変化は、日本人のアイデンティティを自覚することを難しくしているように感じることがあります。このような日本人に自信を回復させるものは何か、と考えたとき、江戸時代以前の芸能や文化を紐解くことが有効では、と思いました。国宝「鳥獣戯画」には擬人化された蛙やウサギが相撲をとったりサルが法会をしたり、といった動物を戯人化する精神、ユーモアのセンスが表現されており、とても魅力的です。このような絵画や庶民の芸能の中に日本人的メンタリティを発見するのは、幸せなことではないかと感じます。
個人の力が弱いと、国際社会で批判される日本人ですが、生活者の目線で見るときには「超民主主義的」であり、自然をこよなく愛し、寛容で柔軟、平和な国民であることを感じます。このような遊びの精神は誇るべきメンタリティだと思います。伝統的な文化を吟味し、再び大切に味わうことは「日本人的なものへの信頼」につながるのではと思いました。

田口 資料

宮田多津夫「日本人のメンタリティーとは」(宮田多津夫

日本人は自然崇拝の意識があり、万物には神が宿るという意識がある。一方、海外では神は一人であり、都市の中の教会に神が存在する。この意識の差が、街や建築の表現に表れている。
つい先日、ベルリンを訪れて分かったのだが、大戦による破壊で崩壊した都市を再現する努力を今も行っていることであった。街を100年前の姿に戻すことは西洋文化にはよくあることである。
一方、日本では自然崇拝や木造文化により、街を新しいものに再生していく意識が強いのではないか。大火で焼けた江戸をまた再生していく。震災で破壊した街を再生する。常に新しいものに再生する意識が強い。「自然は破壊されても再生する」という現実が日本の常識であり気候風土がそうさせている。
「自然」を意識する精神性が日本にはあるからなのだろう。

宮田 資料

村上晶子「まちのいろどりを決めるのは誰?」(村上晶子

多くの人と関わる建築の設計に際して、日本人のメンタルの特徴をひしひしと感じる時があります。それは、【いろ】を決める時に如実にあらわれます。「みんなの建物・・みんなで決めたいけど・・色・いろ・・少し色付けたら?? でも勇気がいるなあ?こんな色?誰が責任とるの」という場面です。公共の建物になると、最初はきれいな色彩の中で計画していても、最終場面で多数決などが行われると、無彩色もしくはアースカラーと呼ばれる色で決定されがちです。決して悪い色ではないのですが、かぎりなく無難にまとめられていきます。自然素材であればわかるのですが、着色で自然素材に似せるとキッチュな雰囲気が漂うので抵抗がありあす。元々日本の伝統色は彩度が抑えられた品の良いものがとても多く、慎重に選べば豊かな広がりを見せることができますし、伝統的建築の中にも鮮やかで楽しいものがあります。勇気と節度をもって一歩を踏み出してもよいかなと常々感じでいます。ここで例にあげているのは、永福町の小さな教会です。少し青味がかった外壁です。これだけおとなしいものでも決定する勇気が必要でした。完成するとまちなみに溶け込みつつ、少しだけ存在感が醸し出されていいます。

村上 資料

今井均「もののあはれに見る日本人」(今井均

日本人のメンタリティーとして昔から(恐らく平安時代に意識される) 現代まで脈々とつづいているものに『もののあはれ』をあげたいと思います。最近ではあまり聞かれなくなった言葉かも知れませんが、まだまだ日本人の心の中には充分存在していると思います。ごく簡単に一例を申し上げればモノや事といったものにも心があるということでしょう。これは勿論そういったことをご自身が感じ、共感すること、それが『もののあはれ』を知ることでしょう。建築にもそういったことは顕著にあらわれていて、例えば、京都の桂離宮や詩仙堂などは庭園と建築が密接に計画されています。多くの日本の古典建築と庭園のありかたは『もののあはれ』そのもので作られているといっても過言ではないと思います。これに比べ、ヨーロッパの建築と庭園は左右対称、シンメトリーの配置をくずしていません。さらに、樹木一本までも人間が徹底的に加工している様は、日本人の好みとはほど遠いものではないでしょうか。この樹、この草、そしてあの月、まで思いを馳せる、それらをいとおしみながら生活して来た日本人があります。

今井 資料

大倉冨美雄「日本人的メンタリティとは」(大倉冨美雄

日本人は、なぜまちの美というものを意識しなかったのかがずっと不思議だった。意識しなかったのではなく、十分意識してはいたが、それが「天変地異で、ある日、燃えたり、崩れたり、流されたりするのが当たり前」という深層心理で、考えてもどうしようもないという気持ちから無視してきたのではないか、との思いに駆られることもある。
そういえば、大河ドラマを見るまでもなく、小県(ちいさがた)の領主などは、館(やかた:居住地)を移るときには焼き払っていったと知り、それほどまでの「生活の形体を残さないことへの思い切りの良さ」、あるいは「形あるものへの執着の無さ」があったのかと驚くのだ。その思いが、明治維新になってどうなったのかが関心の中心で、富国強兵、経済立国を目指した時に、このような「消えて無くなってもいい」ような民家やまちへの心理は、当然、「景観の美」などという価値基準や評価を生まなかったのは当然だろう。
「感性」という立場から、このことの日本人心理を考えてみたのが、添付のチャートだ。 そういうことで建築家として、追い詰められた古民家の持主の心理を考えてみたのが、後半のスケッチ紹介になった。

大倉 資料

連健夫「向こう三軒両隣のメンタリティー」(連健夫

日本人は島国であり、独自の文化と共通するメンタリティーを醸成しやすかったと思います。また農耕を中心とするムラ社会がベースとなっており、近所付き合いを上手くやることは自然に見に付いていると考えます。その中で、お醤油を貸したり借りたりする親密な人間関係や前の道で近所の子が遊ぶ環境の中で、人の子、自分の子も関係なく叱るといった社会性やお土産を近所に配るといった「向こう三軒両隣のメンタリティー」が育成されたと思います。
しかしながら、今日では核家族化、デベロッパーによるマンション開発の中で、プライバシーを過度に優先する状況があり、この関係が薄くなってきたと思います。一昨年の大雪があった時に、近所で協力して雪かきをする姿を見ました。自分の家の前だけではなく、人の家の前まできれいにしているのです。もちろん私もすぐに雪かきに参加しました。自分が住んでいる街をきれいにするという気持ちは、誰でもが持っており、その気持ちが地域コミュニティーでの美観活動に繋がっていると思います。そして、その延長線上に街づくり条例におけるビジョン策定や我が街ルール作りなどの街づくり活動があると思います。
fこの日本人が基本的に持っているメンタリティー「自分の街をきれいにしたい!」という気持ちを街づくり活動に活かすことが大切と考えています。

連 資料

参加者の皆さんから

ひととおりプレゼンテーションが終わって、会場の参加者の皆さんから意見をもらいました。その中で「日本人は宗教と階級について語ることをタブー視してきた」というご意見がありました。歴史の認識とメンタリティはとても深い関わりがあり、どこかで心理的な価値観を語ることに蓋をした日本人、という今の社会の傾向を発見しました。また、「アートの世界では、日本人は近代以降ずっと自信を喪失している」というご意見が出ました。アートという、多分に精神性とオリジナリティが問われる世界では、自信というメンタリティがとても重要なのだと感じました。
一方で、第二次世界大戦に特攻隊に所属しておられた参加者がおられ、その当時のお話は戦時の特別なメンタリティをあらためて考えさせられる機会になりました。武士道に見られる威厳と品格、共感性の強い国民性など、ユニークな視点で日本人的メンタリティを深く掘っていくこともできました。
これからの課題として、世界に向かって発信する力を鍛える必要性、現代のコミュニティーを求める風潮に対し、「村社会的弊害」も考えるべきではないか、という鋭いご意見も出て、コミュニティーの問題はこれからさらに深く掘っていくために、今回のテーマは大切なものだと感じました。
過去から学び、今の日本人に必要なものや克服すべき課題などを考える有意義な時間になりました。(田口知子)

当日の模様

アンケート

ご参加された皆様、アンケートへご協力いただき誠にありがとうございました。
ご協力いただいた方の中から一部をご紹介させていただきます。

セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
皆さんの話をお伺いしたいな、と。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
歴史認識をもって改めて今日を考えたい。
というと、大上段にかまえた感じですが、今日一日、何を食べ、どの器にし、部屋のしつらえをどうしようかとか、日常の立居ふるまいにまで気を配って生きることの大切さを改めて感じた。身のまわりが、いつの間にか安ものでおおわれてはしないか?見まわしてみたいです。
その他、今回のセミナーで感じられたことを、ご自由にお書きください。
まだまだ話が聞けるのではと、これをきっかけにして思いました。
ぶつかり合うことが、あっても良いと思うのですが、そこまで行くのは難しいのでしょうか。
楽しく意見をぶつけ合えば、気持ちが高まる気がします。
今後、セミナーで取り上げてほしいテーマがありましたらご記入ください。
無回答
今後のセミナーについて、以下のどれかに○をつけてください。
また参加したい
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
日本人の精神性や価値観と建築、街づくりとの接点がどこにあるのかということを伺いたいと思っていました。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
欧州との比較の中での社会、文化の違い。
その他、今回のセミナーで感じられたことを、ご自由にお書きください。
無回答
今後、セミナーで取り上げてほしいテーマがありましたらご記入ください。
無回答
今後のセミナーについて、以下のどれかに○をつけてください。
また参加したい

関連資料(PDF)

  • A4版(セミナー概要、アクセス方法など)
  • A3版(当日講演するテーマについて建築家からのメッセージ)

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