JIA港地域会日本建築家協会 関東甲信越支部 港地域会

JIA港地域会 活動報告

第19回 ―6人の建築家と参加者が語りあう―『街と建築を海外と日本から考える』

第19回 MASセミナー
2015年6月27日(土)14:00~トーク、16:00~懇親会
日本建築家協会、JIA館1F建築家クラブ
報告者
大倉 冨美雄
  • サン・ジミニャーノ 町中の塔から広場を望む。町の孤立が分る。
  • パリ ナポレオン三世によって整備されたヴァンドーム広場
  • アルベルベッロ 観光をも意識したまちづくり
  • 京都 洛中洛外の風景
  • ヴェネツィア 古いものを活かす町のたたずまい
  • ロンドン 前庭の美化は居住者の責任

「建築を通して住みやすい社会を目指している」との、今井代表の挨拶で始まった今回のMASセミナー。テーマ紹介のあと、参加者に外国生活経験について聞いてみるとかなりの人がいた。1970年代までのニューヨークは危険と隣合わせだった、などとの話題から本題に。

まず、在伊10年の経験から感じられた、地域の力とも言うべき「土着愛」の元となったと思われる具体的な場所の例として、イタリア・トスカーナ地方の丘の上の美しい小都市サン・ジミニャーノを紹介(大倉)。

次に、街路という概念がなかった日本とは違いフランスでは、街路は「道路と建築が一体」と考えられ、そのことが芝居の書割りと同じで建物外面(ファッサード)の役割を尊重するようになったこと。そこからパリ改造を進めたナポレオン三世の実績が、何はあれ表通りだけ先に綺麗に揃えてしまう「表と裏」のある政策だったとして、ヴァンドーム広場などの例を紹介した(今井)。

続いて、「暮らしやすさとは何か」を問い、それは駅前への集中や高層ビルの事ではないとして、広場の意味や街路美化へのヨーロッパの視線(イタリア南部の村:アルベルベッロの坂道など)を見せ、日本での好例として東京国際フォーラムの中庭を(宮田)。

その次に、ヴェネツィアの例をあげ、古い建物を保存しつつモダンな要素を加えて美しくしている風景に感動したこと、ルツェルン(スイス)に公共建築をうまく利用、更新して美しい町を維持している例を話した。また室町、江戸時代の洛中洛外図屏風を見て、日本の町の構造や歴史の違いを問い、谷中(東京都台東区)の例から日本独自の町の魅力を考えるべき、と話した(田口)。

さらに英国では、一般人が建築のことを良く知っているとして、前庭の美化への近隣の目を。歴史を遡ると、貴族たちが自ら国に税金を取られるよりは公園にと、ナショナル・ファンドを組んだ歴史を。だから「ナショナル」は国ではなく国民=むしろ民間という意味だ。美しいとか良質といった定性的なものを大切にする意味から「第三者機関(建築街づくり機構、英略名CABE)」が出来ている現状を紹介した(連)。

最後に、渡航歴92回で幼児体験から「怖いヴェネツィア」という逆のイメージを持った想い出を通して、礎石造りや200所帯もの親戚縁者で固めたサークル住居(ハッカ)など中国内陸部のまちや村が見せる、家族以外に目が行かない内向きの文化観が日本人とは相容れないものを感じる、との話があった(村上)。

日本人に欠ける公共環境への美意識

  • サン・ジミニャーノ 塔から町の南側を望む
  • パリ 第2次大戦で破壊されたパリ市街
  • 東京 有楽町の国際フォーラムの中庭風景
  • 東京 第二次大戦での焼失を免れた住居が残る台東区谷中の風景
  • ロンドン近郊の公園 かつては貴族が所有
  • イギリス 第3者機関による建築計画の審査風景

一巡して、それぞれの話に関連しテキスト・メモ(プリント資料)にもある記述からの質問に答えて欲しいと司会(連)のリクエストがあり、皆がそれに応えた。

まず、「地域の人々が協力し合って作る地域の生産組織とはどんなものか。産業の進化に従って協同でやることと、地域や個人の思いとの間に落差があるのではないか」については、「(イタリアでは)何とか一体化しようとして努力していると見える」と。(伝統的な生産組織とは職人組合のことである:大倉)。

「(日本人の)多くの個が本当の意味で独立していれば、パブリックは充実したものになる」という仮定の証明については、「日本では、個人を自覚させる本当の意味の市民の独立革命は一度も無く、共和制か王政かで揺れたヨーロッパは侵略の歴史だったが、それでも(個人の意識に基づく)美への評価は続いて来た」と補足。またヨーロッパの文化を取り入れた日本は、アイデンティティを保持しつつブレンド化出来るので優位に立てるとも(今井)。

「もはや見た目や居心地では無く利便性なのか」については、「自分の手を使わないでカネで処理し、カネで買う人を喜ばせればいいという(現代人の)自分だけの利便性は、人を楽しませる事はない。街の美は他者の事を考えてこそ」との説明があった(宮田)。

また、「日本の郊外住宅地には何か違和感を感じる」ことの理由については、「区画され、切り売り販売された商品の集積であり、買ったという感覚を植え付けるだけのもの。もっと町に向かって開かれた公共性のあるエリアなど、混在した機能を必要とする」と述べた(田口)。

「何が日本の街の魅力か」について、「日本に帰ってくると、緑がきれい、緊張がほどける、清潔・安全・明るさ・便利から、多様力の良さを感じ、面白く飽きない」としながらも、「インダストリアル・バナキュラー(工業製品が生活に深く根付いてしまった日常)から、スカイラインが見えなくなってしまったことで、住みやすさをどこで折り目を付けるかが問題」とした(村上)。

それぞれの経験から語る思いは、もっと社会的に切実に問われていいことだ、と感じられた。

他力本願社会を脱して頼られる建築家の世界へ


ここで会場からの意見を求めると、

  • かって日本の建物は自然材に還ることが出来たが、今はどうなっているのか。
  • リスボンで、人生と建築と都市が一体と感じた。記憶を建築が受け止め、建築を都市が受け止めている。日本はそれを失ったのでは。
  • パリのオペラ座辺りを歩いていると日本と変わらない。どこも似てしまった。
  • 20年スペインでも暮らしているが、そのまちはその土地の人間が創る。大学生と話していると十分大人の感じがする。
  • 日本はすべてが通過点にある。
  • これでいいのかと考えながら変化して行くのが日本のまち。
  • 去年初めて北京へ行ったが、建物が大きく、国情の違いを感じた。でも日本が一番。
  • 室町時代からあった人の縁が少なくなった。
  • シドニーのオペラハウスを見て、一つの建築が大きく街のイメージを変えることを知った。
などの思いが語られた。

最後にスピーカー5人の一言づつで、
今井「日本人はお上から与えられるのを待っている」
村上「市民が育っていない。小学校からの教育の問題だ」
大倉「話がハード(建築・都市)とソフト(国民性・政治・風土・感性)を繋げて一緒に語ろうとするので大変。(テーマの設定責任は私だが)とんでもないことになった」(大笑)
宮田「まちが子供を育ててくれた。寄り道が出来ないまちからの脱出を」
田口「街に対して私達がどうあればよいのか、一緒に考えましょう」
まとめとして、「環境に対して市民が意見を持つ事が大切。そこから建築の力を知り、建築家に創って貰わなければならないとして行きたい。つまり我々は公益を考えている」(連)と締めくくった。

次回は来る10月17日(土)、同じ場所、同じ時間(午後2時)で。20回目を踏まえて、ワークショップ感覚も盛り込んで「子供たちに何を伝えて行くか」をテーマにしたい(次回担当村上)と説明があり、懇親会へ移行。
ワインを飲みながらの雑談はおおいに盛り上がりました。

まとめ:大倉 冨美雄

アンケート

ご参加された皆様、アンケートへご協力いただき誠にありがとうございました。
ご協力いただいた方の中から一部をご紹介させていただきます。

セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
テーマに興味を持ちました。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
子供の時からの建築教育が必要との意見には賛成です。
その他、今回のセミナーで感じられたことを、ご自由にお書きください。
色々なセミナーに参加していますが、大体が建築家が建築に関係する方達に向けた内容が多かったのですが、今回のような一般の方達への問いかけがあるのは、とても意味があり良いと思いました。
今後、セミナーで取り上げてほしいテーマがありましたらご記入ください。
子供の成長に対して建築空間の影響性について
今後のセミナーについて、以下のどれかに○をつけてください。
どちらでもない
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
多様な考えを知ること
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
宮田さんの子供を育てやすい街
今井さんのパリのファザード
その他、今回のセミナーで感じられたことを、ご自由にお書きください。
料理に例えるとバイキング
バラエティのある話題を楽しめました
今後、セミナーで取り上げてほしいテーマがありましたらご記入ください。
街のつくり方についての意思形成の進め方
今後のセミナーについて、以下のどれかに○をつけてください。
また参加したい
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
海外旅行は観光のツアーで、街並を見る機会はバスの中から見る程度で当時は関心がなかった。
海外ではどのような歴史をたどり街が成り立って来たのか、先生方のお話を伺いたかった。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
大倉先生:カンパニリズモの語源がカンパニーレ(協会の鐘)が鳴り響く範囲。
今井先生:パリの表と裏、道と街が一体。
村上先生:中国では血縁関係が街を作っている。
宮田先生:広場(外国)と街道(日本)、子供を育てやすい街。
田口先生:郊外の家に違和感を持つ。
連先生:産業革命で縁が失われた。
その他、今回のセミナーで感じられたことを、ご自由にお書きください。
街は人・経済・時間で作られてきたと思います。経済は街の活気に影響を与える。街を支える人が、どのように街に関わるのか、関わり方も街の経済・環境に影響を与えると思う。街は「作った」ではなく作られてゆく時間軸上で、そぎおとされたモノ、加えられたモノによって、今の街並があるのだと思う。
重要なテーマで先生方のお話をもう少し聞きたかった。
今後、セミナーで取り上げてほしいテーマがありましたらご記入ください。
建築基準法と景観
今後のセミナーについて、以下のどれかに○をつけてください。
また参加したい

関連資料(PDF)

  • A4版(セミナー概要、アクセス方法など)
  • A3版(当日講演するテーマについて建築家からのメッセージ)

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