JIA港地域会日本建築家協会 関東甲信越支部 港地域会

JIA港地域会 活動報告

第17回 癒され元気になる建築・街とは何か?

第17回 MASセミナー
2014年12月13日(土)14:00~トーク、16:00~懇親会
日本建築家協会、JIA館1F建築家クラブ
報告者
連健夫
第17回 MAS

今回のテーマは「癒され元気になる建築・街とは何か?」である。建築と街に求められる根源的役割への問いかけ、である。それが解ければ、どのように建築を捉え設計すれば良いのか、どのように街づくりをすれば良いのか、を見つけることができよう。つまり、建築と街に対する評価軸を掘り下げるのが狙いである。年末の忙しい時期にも関わらず、10人の参加者を得て深みのあるセミナーとなった。

最初にセミナー担当の田口氏から、港地域会は日本建築家協会の地域会の1つであること、地域と繋げるためにMASセミナーを行っていること、と挨拶された。次に、今回のテーマ担当で、進行役である筆者から、建築と街に求められる役割としての「癒し」と「元気」についての解説と共に、各建築家から10分のプレゼをしていただき、それに対して当方から質問をして応えていただくことなど、本日の進め方を説明した。

今井均「風景と人の記憶」(今井均

今井氏 プレゼ1
今井氏 プレゼ2

切り出しのコメントは『スケッチは感動のメモである』、次々に今井氏自身が描いたスケッチが紹介された。最初のスケッチは白金台三丁目の坂の風景である。ここで幼い時に良く遊んだ、坂は昔の地形をそのまま表しているとのこと。2つ目のスケッチは上大崎一丁目の清岸寺である。お寺は宗教的、歴史的な意味合いがあり、私の記憶のベースを作っている。3枚目は白金台のカフェのスケッチ、ここでのんびりとカフェを飲むのが楽しみでありホッとする場所、とのこと。石の床に光が差し込み何とも言えない素敵な空間である。4枚目は屋形船の景色のスケッチ、水場の癒し、と賑わいが感じられる。5枚目は高輪四丁目の坂道の風景である。変化の富んだ地形の趣がある。これらのスケッチから感じるものが、氏にとっての癒しの建築・街であるとのことである。

当方からの質問は「なぜ、これらの風景は癒され、元気を与えるのか、その理由は何でしょう?」(応えについては全員のプレゼが終わった2巡目として話をしてもらったが、ここでは前後があると分かりづらいので続けて記する)に対して、氏は、『豊かな暮らしとは“繋げる”ことを考察すること』とした。『歴史を感じる建築と街は時間を繋げている。生活を感じる街は人を繋げている、つまり、必要な設計とは、何かと何かを繋げるデザインだ』と応えた。

大倉冨美雄「木、わたしのおともだち」(大倉冨美雄

大倉氏 プレゼ1
大倉氏 プレゼ2

大倉氏は、木のある風景のイメージを出しながら、街における木の意味を説明した。最初のイメージはベネチアである。運河を通行する船が中心とは言うものの両側にしっかりと大きな樹木がある。『この樹木があってこそ絵になっている』とのこと。次は外苑絵画館前のいちょう並木、樹木は無くてはならない存在である。次に映し出されたイメージは、木はあるが殺風景な公園、氏は『樹木があっても人の生活感が無いのが問題』と指摘した。次のイメージは街の中のイベントの写真、中心に大きな樹木がある。『代官山ヒルサイドテラスの風景です。ここには生活感があります』。次のイメージを示し『ここはどこか分かりますか?』との質問。当方が「港区役所の前の緑地じゃないですか」と言い当てると、氏は『ここでは人が樹木の間で憩う姿がある』とのこと、当方もここの雰囲気は好きである。建物がセットバックして緑地を確保している写真、しめ縄がかけられている神木の写真も紹介された。氏は、『樹木と言っても死んでいる風景と生きている風景がある』と結んだ。

当方からの質問「死んでいる風景と生きている風景が生まれるのはなぜか?」に対し、氏は、『生活感が感じられる樹木の風景とは、人の手が入っている場である。空間と樹木の関係をとらえたデザインが生きた風景を作っていると思う』と応えた。

田口知子「人を癒す建築の役割」(田口知子

田口氏 プレゼ1
田口氏 プレゼ2

氏はマギーズセンターの話をした。マギー・ケズ゙ウイック・ジェンクス(造園家)は47歳の時に乳がんの告知を受けた。その経験から病院には悩みを受け止める場所が無く、病院の外に患者を受け止められる家のような場所を作る必要があると提唱し、彼女の死後も、夫のチャールズ・ジェンクス氏や賛同者達によって、世界中にマギーズセンターが建てられているとのこと。その建築の基準として、『1、全体コンセプトは家庭的である』『2、安全な緑がある』『3、オープンキッチンが中央にある』『4、個人面談室や個室以外の部屋はオープンプランである』『5、予約なしに立ち寄ることができる』といったことが挙げられた。氏が強調したことは、どの施設もユニークなデザインであり、建築が癒しのみならず元気を与えていることである。田口氏自身の作品も紹介されたが、それらもユニークなデザインであり、共通点が感じられた。

当方からの質問「なぜ、ユニークなデザインが元気を与えると感じるのか?」について、氏は『有機的で斬新なデザインは、どこにでもあるデザインではなく独創性がある。利用する人は、その建築のアイデンティティを身近に感じていると思う』とのことである。確かに個性あるデザインは、自分の拠り所として明確性を持つと思われ、マギーズセンターの建物はすべてが建築家の設計で、明確なアイデンティティを持っていた。

連健夫「そこに生活される方が関わった建築・街」(筆者:連健夫

連氏 プレゼ1
連氏 プレゼ2

当方は、癒され元気になる建築・街の要素として、『1、時を経ても大切にされている』『2、利用者が参加してできたもの』『3、自然が感じられる』の3点を挙げた。その事例として田園都市構想における建築家:アンウィンの話をした。アンウィンは中世の街に新しい住宅地設計のヒントを学んだ。それは(緩やかに曲がった道、多様な形の家、共有の緑、中心性)などである。イギリスの街並の特徴は、前庭が半公的な場で、庭の緑が街並みに貢献していることである。個人の持物であれば何をしても良いではなく、建築や庭が街並みを形成しているという意識を住民自身が持っており、その意識が癒され元気になる街並みを作っている。当方が関わっている赤坂通りまちづくり協議会の街づくりの活動についても紹介した。港区はまちづくり条例の中で、認定まちづくり協議会に専門家を派遣する制度を持っており、当方はまちづくりコンサルタントとして、まちづくりワークショップや我が街ルールづくりのアドバイスを行っている。これに参加している住民から集合住宅の設計を依頼された。オーナーの意識は赤坂の特徴を活かしたいとの思いがあり、デザインプロセスにオーナーが参加し、その想いが反映するデザインとなった事例を紹介した。つまり、住民が参加して育っている街、施主が参加した設計が、癒され元気になる建築と街を作っている、という趣旨の話をした。

会場の参加者からコメントをいただいた。

懇親会

『大切な建築を保存することが大切であり、その保存運動が住民の意識を育てる』『建築教育において街に出て一般の方と接する中で建築を考えるという学生に体験させることが大切である』『ヨーロッパの街が好き、長い時を経て息づいている生活感のある街が多い』。質問として『なぜ自然に関わるものが人を癒すのであろうか?』などである。この応えとして、当日参加できなかった鈴木理巳地域会代表のコメント文が参考になる。氏は『地表に近いものほど生体になじむ』という話から、人はそもそも自然の一部であり、長年の中で人の遺伝子の中に組み込まれており、自然に触れた時に癒しを感じる。従って建築や街に自然素材を用いることが大切である、という趣旨である。
懇親会では、ワイン片手に参加者と港地域会のメンバーが交流し、このテーマと港地域会の建築家達の問いかけがそれぞれの中で深められ、充実したセミナーとなった。

文責:連健夫

アンケート

ご参加された皆様、アンケートへご協力いただき誠にありがとうございました。
ご協力いただいた方の中から一部をご紹介させていただきます。

セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
建築家が市民に向けて専門的になりすぎないように、「暮らし」や「街」について語ること。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
建築という「もの」ではなく、使われることによる街や人へ与える「効能」が聞けて楽しかった。
今後、セミナーで取り上げてほしいテーマがありましたらご記入ください。
再開発+経済性+相続による街並への影響+高土条例。
港区の新駅開発について。ベイエリアの街づくり。
今後のセミナーについて、以下のどれかに○をつけてください。
また参加したい
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
町作りの具体的行動のヒント。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
自分が興味を見出すことに出合うことが重要である。
その他、今回のセミナーで感じられたことを、ご自由にお書きください。
それぞれの感じ方を共有する人の輪を広げることが大切である。
今後、セミナーで取り上げてほしいテーマがありましたらご記入ください。
建築家の存在価値を一般社会が認めることの具体的方法の発見、参加。
今後のセミナーについて、以下のどれかに○をつけてください。
また参加したい

関連資料(PDF)

  • A4版(セミナー概要、アクセス方法など)
  • A3版(当日講演するテーマについて建築家からのメッセージ)

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