JIA港地域会日本建築家協会 関東甲信越支部 港地域会

JIA港地域会 活動報告

第41回 自身の師の存在について

第41回 MASセミナー
日時
2025年9月20日(土)
14:00~
場所
日本建築家協会 JIA館1F建築家クラブ
パネリスト
連健夫大倉冨美雄黒木正郎宮田多津夫田口知子武田有左小川真樹今井均

直に人と人が対話する機会はここ数十年来減り続けていることに底知れぬ不安を覚える方も多いのではないか?そのことに関わる文明、文化の急速な変化が我々の生活に変革を要求していることも事実だろう。あらゆる面で直に物事に触れることがなくなる世界では人同士の直の対話も少なくなり、その結果『師』と仰ぐ様な人間関係も全体として僅かなものになるのではないか? 今一度この人生の生き方に影響を及ぼす師の教えについて個人の経験などを基に考えてみたいという事を今回のテーマとしたい。(今井均

連健夫ありのままをしっかり捉えなさい
連健夫

私の建築感に影響を与えた恩師は、建築家セドリック・プライスです。1991年~96年に英国のAAスクールに留学し、学生、教師として過ごした時、師の助手をしました。課題は○○を設計しなさいという目的型ではなく、○○を調べ課題を発見しなさい、という探求型で、身体的にありのままを捉えることが求められます。作品は建築のみならずパフォーマンスやインスタレーションなどの表現が許され、コンセプトがいかに表現されているかがポイントとなります。学部で行ったロンドンタクシープロジェクトでは、偽物のチャールズ皇太子が本物のタクシーに乗ってきて、偽物のモデルのタクシーを経験するというパフォーマンスをしました。ここでは、本物↔偽物、部分↔全体、2次元↔3次元など、「ありのまま」の対照的デザインキーワードが込められています。

セドリック・プライスから影響を受けた言葉は、「1分の1で考えなさい」「本物から学びなさい」「利用者の目で考えなさい」「プロセスもコンセプトも作品である」「ありのままをしっかり捉えなさい」です。これらは、私の現在の建築やまちづくり活動のベースになっています。

大倉冨美雄感じた通りに生きれたミラノ生活
大倉冨美雄

無視するような発言をしてきたけれど、当然、師がいなかったわけではありません。

小学校時代の内田松子、遠藤、佐野多先生。友人の父の茂登山東太郎氏、大学時代の小池岩太郎先生。ミラノ事務所々長カルロ・バルトリ等。

でも、話を変えますが、自分を動かした「別の師」は「映画」です。それを伝えたい。

皆さんは、戦後の荒廃と少ない情報の少年時代を知っているでしょうか。

現在の己の行き詰まりにはイタリア体験もあるのでしょうが、その前に3つの映画に心を奪われてしまった過去があるのです。

「わが青春のマリアンヌ」「太陽がいっぱい」「去年マリエンバードで」

撮影場所を夢中で探したことも。どれも心底から理解したと思い込んだのです。

こういう経験では、その後のイタリア行きも、日本の状況にうんざりしていたことも、もっともでしょう。上位下達の上、大きな視野のないサラリーマン生活は想定通り。川崎はひどい環境汚染に曝されていました。

後から考えて、日本人の文化評価そのものが、明治からの輸入文化に席巻されている事、それを学んだ知によって現在が構成されていることが、当時から予感されていたのです。それなら本場を見てみようと思わずにはいられない。その結果は想定通りだったのです。

黒木正郎わが導師
黒木正郎

高校を卒業するまで進路について何も考えていない子供でした。

高校一年の技術科の授業は破格に面白いものでした。建築士でいらした若い講師の先生は「課題を出して作品を提出させる」「その作品を考え出した理由と技術的背景を説明させる」という大学の建築学科のような授業をして下さいました。課題は例えば「75立方メートルの空間に自分の住みたい家を考える」「(パンテオンの平面図を与えて)この上を覆う屋根を想像してその理由を述べる」などでした。

ある時「30㎝離れた2点を30㎝の高さで越えて繋ぐ構造体を、棒と糸だけで作る」という課題が出ました。私は12個の三角錐を頂点で繋いだ、今思えば幼稚なテンセグリティのような作品を出しました。講評の中で何故か将来志望する職業を聞かれた私は何気なく親と同じ医師と答えたのですが、その瞬間彼は顔を上げ一瞬深い視線で私を見つめたのでした。

その後二歳上の兄が医師の道に進み、親からは兄弟で同じ仕事はよくないと言われ、大学で進路を選ぶ事になった時に私の脳裏にその時の先生の視線が鮮やかに浮かび上がって、私には建築以外考えられなくなっていました。その講師、山本圭介氏を私は勝手に導師と仰いでいます。

宮田多津夫私の師
宮田多津夫

「播繁」との出会いが私の転機になった。幡繁は、長野の「エムウエーヴ」を設計した構造家で、丹下健三などの建築家の構造デザインを実現した人である。彼は、私は20代は作る楽しさに没頭し、30代は矩計を含め全体を見る目を養っていたが何か物足りなかった。39歳で、山梨の小瀬アイスアリーナのコンペ担当になり播さんと出会った。3週間の厳しいスケジュールの中で何枚もイメージスケッチを示したが、幡さんは「ボリュームを小さく」との指摘。世界のアイスアリーナを見てきた確信があり、譲らなかった。通年型リンクは製氷に有利な低い屋根が基本。だが、長野はなぜ高い屋根なのか?冬季のみ氷を張るイベントアリーナとのその違いが形に表れていた。形を考える前に、アイスアリーナの本質を考える。「滑りやすい氷を保つ」これが本質であった。シンプルな発想のおかげでコンペに当選した。設計が始まると木材を利用しよう、アルミは使わず鉄で表現しようという助言があった。それにチャレンジした結果、できたものに本質が宿っていることを知った。みんながほめてくれた。建築の本質を体験させてくれた大事な恩師である。

田口知子憧れる存在に出会うこと
田口知子

今回は「自身の師の存在について」というテーマで私が影響を受けた先生について話しました。自分が「建築家」への道に進もうと思ったきっかけには、何人かの建築家の存在があります。 自分は、絵をかいたりものをつくったりする仕事には興味があったものの、大学3年生になるまで建築家という存在をほとんど知らずに生きていました。大学の数学の授業に落ちこぼれ、建築なら理解できそう、という安易な気持ちで進んだ工学部建築学科。そこで建築家に出会い、圧倒されるようなあこがれを持ったことを思い出します。当時槇文彦先生が設計を教えておられ、学部3年のときに退官されたのち。槇研を引き継いだ大野秀敏俊先生に師事。大野研助手であった小嶋一浩氏には本当に印象深い言葉と指導をいただきました。建築家長谷川逸子氏が当時湘南台文化センターをコンペで受賞し竣工しました。長谷川氏の考え方と作品に感動し、事務所の門をたたき8年修行させていただきました。そして独立して28年。良い建築を実現することの難しさに日々苦闘しつつ、そのような夢を与えてくださった師の存在にあらためて感謝します。最後の一枚は、「建築」の意味を考えていて、つくった図版です。「師」というのは、いろいろな意味があると思いますが、私にとっては「一生かけて追い続ける夢や目標や夢を与えてくれた人」であると、MAS41の機会に考えることができました。

武田有左『師』と仰ぐ様な人間関係
武田有左

建築の道を歩んで来た者に取って、師というと先人の建築家の名前が挙がるのかも知れないが、残念ながら私にはその様な人は居ない。しかし、今となり、自分が歩んで来た道を振り返ると、建築=モノ創りという視点から絵描きであった父の存在が浮かんで来る。38歳で夭折した画家であったが、子供心に絵を描く後ろ姿は、正にモノ創りの原点そのものであった。

今、振り返って見ると、決して建築一途ではなかった学生時代の丹下健三からの思わぬ声掛けや村野藤吾建築との出会い、そして、そのご遺族の方々とのご縁と長きにわたる交流、また、思いも寄らなかった卒業設計賞の受賞や社会人になって早々の建築CADとの運命的な出会いなど、その後の建築の道への数々の不思議な出会いも、天国の父の導きだったのかも知れないと考えてしまう・・・

20年勤めた会社を辞めて最初の仕事がミュージアム設計だったことも、文化施設の実績が皆無にも拘わらず、良く巡りあえたと思う。

また、偶々その建物の近くにお住まいだった、戦後の文化施設行政に絶大な貢献をなさった半澤重信先生に巡りあえた事も不思議だ。

現在、ミュージアム建築の本を執筆中であるが、執筆指導を頂く半澤重信先生が、正に、亡くなった父と同年代ということも単なる偶然とは思えない。もし父が生きていたら、齢96歳となる半澤先生と同い歳だったんだなと、先生のお姿越しに父の事を考える・・・

小川真樹3人めの師
小川真樹

私は師と呼べそうな人が3人いた。1人めは父、脚本家の小川英からは賭け事などを通じて自信を持つことの強さを教えられた。2人めは先生、藝大指導教授だった奥村昭雄からは深く科学する心と目を学び、それが楽しくてしかたなかった。そうして自信たっぷりで挫折を知らない男が出来上がった。

3人めはボス、建築家の三上祐三と出会い、それまでの自信も楽しさも吹き飛んだ。全てを否定されるような理不尽を感じたものだ。苦闘は長かった。10年をすぎる頃から三上さんの本質が見えてきた。三上さんからも認められたような気がしてきた。でも、どうしてそう思ったのかを説明することができない。いま考えると、全てをさらけ出して勝負していたような感覚はある。それが私の中に何かを作り出したのかもしれない。

三上さんが亡くなる前年、ケアホームにひとりで暮らす彼を訪ねた帰り際に「僕の部屋を見て帰って」と言われた。そんなことを言う人ではなかったので驚いた。彼は自分の部屋に入らずドアの外で立って待っていた。私が修道僧の部屋のような質素で美しい室内と窓からの景色に感嘆して部屋を出ると、彼は「どお、いいでしょ?」と笑った。涙が出そうで頷くのが精一杯だった。師とはいったい何なのか、よく考える。

今井均邂逅
今井均

今回、久々に『師の教え』と言うフレーズで考えはじめたが、僕の場合、この言葉は実際の言葉ではなく、実態を観てゆくことによって導かれた言葉として、20代の初めに考えさせられたことがある。いま思えば、その頃求めていたものがあるにもかかわらず、そのことがなんとも不明瞭な見通せない状況に落ち着かない日々があった。そんなとき、僕が求めている建築の姿にある日、偶然に出会うということが起こった。その『建築のたたずまい』が僕の求めていたものではないかと確信めいたものとして思えたのだが、こういった『邂逅』というに相応しい状況はどうしたら生まれるものかと現在考えてみると、どうもそれは、あちらにあるのではなく、求めるこちら側の思いに由来しているように今では感じている。念じるとはいかにも古い言い回しのようだが、当時僕は真理のようなものを求めていただろう。建築がありとあらゆる都合によって作られてゆく現代社会の中で、確かな、変わらぬものが欲しかった。求める心が持続したとき師のおしえならぬ先達の姿に巡り合うとは今持って不思議なことであった。

当日の模様

MAS第41回の模様1 MAS第41回の模様2 MAS第41回の模様3 MAS第41回の模様4

アンケート

ご参加された皆様、アンケートへご協力いただき誠にありがとうございました。
ご協力いただいた方の中から一部をご紹介させていただきます。

第41回アンケート1
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
建築家の方々の建築に対する物作りの姿勢etc
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
無回答
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご記入ください。
大変興味深い話も聞けました。
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご記入ください。
無回答
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第41回アンケート2
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
師とはなにか?を知りたい。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
無回答
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご記入ください。
人によって、師のとらえ方が違うことを知って良かった!
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご記入ください。
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第41回アンケート3
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
様々な意見を伺い、様々と思案できること。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
黒木さん 才能とは誰かに見出してもらわないと自分では気付けない。
今井さん 師は求めるところに現れる
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご記入ください。
今回のテーマは、MASのこれまでのものと異なるな、どういう風になるのだろうかと思っていました。参加して、MASはどんなテーマでも取り扱えるのだと感じました。
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご記入ください。
どうしてオルセー美術館の女子トイレに列ができるのか?
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第41回アンケート4
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
違う業界(世界)の意見をお聞きすること
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
無回答
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご記入ください。
これまでの人生をふりかえるきっかけとなった
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご記入ください。
無回答
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第41回アンケート5
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
各先生方の師がどういう方で何故なのか
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
師というのは生き方の指針となる方
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご記入ください。
改めて師という事を考える機会をいただいた
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご記入ください。
各先生の一番好きな建築
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第41回アンケート6
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
タイトルではなく、久々に違う分野からの刺激をうけたいと思い参加致しました
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
探究の時代といわれている。本物の師がいなければ、ゆとりというすばらしい内容を本物の師が居なくて失敗した。みなさんはすばらしい師と出会っているから今があるのだと、その本物の師であり、師と結ぶのも師。
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご記入ください。
こどもたちに学ぶ場も師になれる
つめたいつまらないたてもの、部屋ではない必要。
本物にふれる 本物の中にいる 本物新体験する
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご記入ください。
教育と空間、不登校にならなくする空間、面倒くさいとかゲームばっかにならない空間
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第41回アンケート7
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
今井さんは元気か。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
師というものをあまり意識したことは無いなぁと、思った。
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご記入ください。
人は人に影響を受けて、大人になる。
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご記入ください。
無回答
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第41回アンケート8
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
無回答
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
無回答
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご記入ください。
人と接する事が減った現代、今日の話を今の子どもたちに聞かせたい。 何をするかより誰とするか。誰を師とするか。大切な事と感じました。
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご記入ください。
無回答
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第41回アンケート9
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
父が大切にしているコミュニティの皆様とお会いできること。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
音楽は非言語コミュニケーション
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご記入ください。
活達なコミュニケーションの起こるコミュニティには常に危機意識が備わる。
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご記入ください。
一番影響を受けた(好きな)建築
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第41回アンケート10
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
・皆さんの意見が聞ける。
・テーマ
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
・それぞれの話が興味深かったです。
・自分においての師のことを考えることが出来ました。
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご記入ください。
・現地域会のMASセミナーはテーマ設定がとても良いと思います。お互い建築家の顔が見えるのが大事だと感じた。
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご記入ください。
・建築がこわされる時代で残っている建築がなぜ残っているのか?港区?
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第41回アンケート11
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
きっと建築に関することが聞けると思っていた。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
けど、いろいろな方の学び方、とらえ方を聞かせて頂いて、面白かったです。
もっといろいろ建築業界の事が分かった上で聞けたらもっと楽しかったのに…と、ちょっと残念に思ってしまいました。面白かったです。ありがとうございます。
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご記入ください。
無回答
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご記入ください。
無回答
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
無回答

関連資料(PDF)

  • A4版(セミナー概要)
  • A3版(当日講演するテーマについて建築家からのメッセージ)

関連リンク


PAGE TOP

※当サイトで使用している画像等を、許可なしに掲載したり、著作権者の承諾なしに複製等をすることはご遠慮ください。
© JIA 日本建築家協会 関東甲信越支部 港地域会