JIA港地域会日本建築家協会 関東甲信越支部 港地域会

JIA港地域会 活動報告

第40回 大分別府を訪ねて(JIA建築家大会2024別府 開催報告)

第40回 MASセミナー
日時
2025年4月5日(土)
14:00~
場所
日本建築家協会 JIA館1F建築家クラブ
パネリスト
湯本長伯連健夫村上晶子

今回のMASセミナーは2024年度建築家協会全国大会の報告も含めた地域研究と建築家の仕事について、参加の市民の皆さんとJIAンバーが語りました。第40回は「大分・別府を訪ねて」で、地域シリーズは2回目になります。
建築家の仕事は街造りから必要な資金準備活動まで多様で広い分野に及びますが、最終的には良い建築環境の創成に繋がり社会の役に立って行きます。その一端をお伝え出来たと思います。その多様な仕事の中に、街づくりもあります。

湯本 長伯建築家の多様な仕事と街・地域への視点
湯本長伯

豊後の国は大分県に相当する令国で、当時の風土記には「地形広く大きにして亦麗し、碩国此れを於保岐陀オオキダと云ふとあり、「オオキタ」が訛って「オオイタ」となったようです(大分県HPより)。

しかし工業転換では上手く行かず、結局は観光頼み。別府・鉄輪という大湯量の有名温泉地もあるが本来それだけではなく、豊かさを取戻そうとして様々な地域興しが行われて来た歴史の地でもあり、大分県由布市の湯布院等の成功例もあります。
【地域研究の勧め】地域研究の勧めとは、此の日本を過去に遡って色々知ると多くのことが納得いき、例えば地域に溶け込んだ建築の設計とか、少し寂れてしまった我が町を元気にする運動とか、皆で協力して頑張りたい町興しとか、我が家の近くの道をその歴史から解って見直すと、ごちゃごちゃした現状をすっきりさせる策がみんなで考えやすくなり合意形成も得やすくなります。地域の歴史と特性を深く知ると、そんな魔法みたいな変化を手に入れることが出来るかも知れません。その第一歩になることのお勧めです。
(地域興しも建築設計も、地域を知ることから)

大分県地図(インターネットより引用)
大分県地図(インターネットより引用)

  • a:大会で各地を回る~日本各地は多様性・独自性の塊(知ることは建築の実務にも大事)
  • b:大分~豊かなので細切れにされて来た歴史+脱米作と街造りの歴史
  • c:豊後の王・大友宗麟~大友氏は鎌倉武士の末裔。平家滅亡後の地域安撫のため多くの鎌倉武士が九州・中国地方に派遣定着、毛利氏も同じ
    (隠れた古代~中世の東西交流~重層的な社会)
  • d:地域研究(地域を多角度から研究)は街造りから都市計画まで実務的にも極めて重要 ※全国各地の地域振興に取り組んだ経験から、地域を深く知らないと上手く行かない(時に絶大な抵抗を受ける/五島での経験)
  • e:地域にはまだまだ様々な過去の痕跡が残っている~きちんと把握する

連健夫別府のまち歩きワークショップから(らしさ)を探す
住民・行政・専門家を繋ぐファシリテーション
連健夫

■2024年のJIA別府大会は11月28日29日に開催され、まち歩きワークショップは1日目午前に実施されました。別府駅から大会会場のピーコンプラザまでの4コースに分かれて歩きます。ご協力いただいたのは、大分大学の姫野先生と学生、地域住民です。

■これに関わるJIA建築家への事前勉強として、オンライントークイベントを実施しました。建築活動家、栗生はるかさんの「銭湯で人をつなぐ」、別府市役所の籠田真一さんの「別府のまちづくり」、当方からは「まちづくりファシリテーターとは何か?」の話をしてディスカッションをしました。当日のまち歩きワークショップに参加するJIA建築家には、事前にファシリテーションの流れや方法について共有しました。

■当日は、別府に集合、4グループに分かれて、まちのタカラ(良い所)とアラ(課題や問題点)を探します。小道具としてポインター(指し棒)を用い、ポインター係、写真係、メモ係を決めて歩きます。住民は、その街の専門家として先導いただき、皆で指摘します。住民が汚いもの、流行遅れと思っていても、建築家から観るとノスタルジックで良い、とか、学生から観るとカッコいいとか、色々気付きがあります。店から店長が出てきて姫野先生に挨拶、この店長はこの地域で人気の方ですと紹介されました。人材もタカラですね。
ピーコンプラザの会場に到着し、4つのグループで話し合いをします。現状分析として1枚、提案として1枚をまとめます。JIAの建築家はファシリテーターとして進行をします。分析シートの中央に地図を貼り、周りに写真を貼りにコメントを記入します。全体ファシリテーターは松村氏と当方とで行い、に各テーブルを廻りアドバイスをします。2枚目は提案、住民はアイデアを話し、建築家はそれをスケッチにしていきます。
各グループごとの発表は皆で協力して行います。エリアが異なるだけに、提案もバリエーションがあります。具体的な提案もあり、これらの成果は別府市役所の籠谷課長に手渡しました。

■ファシリテーションのポイントは同じ目の高さで対応することです。聞き上手であることも大切ですね。
アラを解決すると共に、タカラを活かす、この成果が普段のまちづくり活動に繋がっていきます。以前の建築設計は専門家のみによる設計でしたが、利用者がそのプロセスに関わるようになってきました。都市計画では、住民がまちづくりに関わるようになってきました。これらは使いやすくなる、大切に使うという持続可能性に繋がってきますね。

■カイロ旧市街で保存まちづくり活動をしました。世界遺産であるカイロでは、その価値の無理解により、取り壊したり不法改築が行われている問題があります。エジプトと日本イコモスを通し、文化庁事業として、住民参加のまちづくりを行う中で、世界遺産の街の価値を理解して、保存に繋げる趣旨です。日本からオンラインで現地の建築家にまちづくりファシリテーターの講義を行い、ワークショップを実施しました。当方もカイロに行き、現地の建築家と一緒にワークショップをしました。この活動は継続されています。

■住民参加のまちづくりによって、○○らしさのある街をつくることは大切です。別府の温泉という資源を市民と行政と専門家のコラボを通して活かすことにより、ハードとソフトがうまくブレンドされた豊かな街になっていくと考えています。

村上晶子建築の都市的・文化的意義とは
大分県立大分県立図書館からアートプラザへ
村上晶子

今回の第40回MASセミナーでは(JIA建築家大会2024別府大会の開催報告を絡めて開催することになりました。私は大会も参加しましたが、その後に行われた『JIA25年賞』の審査員として大分城址公園に離接しているアートプラザを訪れたこともあったので、[建築の都市的・文化的意義とはー県立大分図書館からアートプラザへ]と題してお話することにしました。

最初に『JIA25年建築選』『JIA25年賞』の9つのクライテリア(評価軸)を再確認させていただきます(資料参照)市民との関係で如何に建築が存在しているかに関わる指標です。アートプラザは●が推薦理由です。60年近く前に建設された図書館が、後に同じ建築家によって改修されて25年建築賞に行政から推薦されて応募されたことに深い意義も感じています。それと同時に大分市が大分創造ビジョン2024として大分市都市計画マスタープランの中でアートプラザのこれからのビジョンを策定し、活用していくことを表明していることも生きた建築がまちづくりの中におかれていることを嬉しく思います。

旧大分県立図書館は大分市出身の磯崎新の初期代表作です。1966年に竣工・開館し、翌年に日本建築学会賞受賞を受賞していますが、1994年には大分県立大分図書館が新築移転のため閉館することになりました。その後1995年に大分市が無償貸与を受けて(のちに取得)磯崎の手によって改修され1998年にアートプラザとして開館しました。用途は、市民ギャラリー、60’sホール、磯崎新建築展示室を含む大分市の文化施設に変更されました。現在は登録有形文化財に登録されています。

磯崎は大分市出身です。1931年に 磯崎操次の長男として生まれ、父である操次は実業家と同時に俳人(藻二)だった人です。大分県の俳句革新運動の指導者であり文化を支援する旦那衆を自任していたそうですが、磯崎が大学2年生のときに亡くなり、その後は岩田学園経営者であった岩田正(磯崎は第二の父とも言っています)をはじめとする旦那衆が学生だった磯崎に大分県医師会館、県立大分図書館、をはじめ次々に仕事を斡旋していった背景があります。その大分県立大分図書館は予算のめどが立たないうちに設計依頼されたこともあり、拡張できるシステムとして「プロセス・プランニング論」とともに発表され《成長する建築》を実現し、大分県立図書館は大分市のランドマークとなっていきました。しかし、図書館としての機能が十分発揮できなくなった時、取り壊されかもしれない「事件」がおこります。すでに世界的建築家磯崎新の初期傑作として日本の代表的近代建築作品として確固たるものとなっていたからです。ここで紹介する本は、この事件が提起した問題は何か、建築の都市的・文化的意義をめぐる識者・専門家の意見を交えながら磯崎自身が、建築、特に公共建築とは何かを考察し、建築の政治学,また磯崎建築の本質を理解するうえでの必読書です。磯崎はこの序文の中で建築は、保存・改修・再利用・再活性化などの場面に遭遇するが、これらをまとめて転生と呼べないかと言っています。“転生は仏教用語だが、建物を単なる物質的構造体と見るか、いのちある生物として見るかでこの用語が適切であるか判定されようとー「時間」の流れにそって変貌していくもの、地上に生まれた建築物は、作者や関係者の手を離れて生きはじめる。生きたあげくに、死をむかえることが常道だが、そこの時点で生まれ変わることも可能なのだ”・・・と

アートセンターとして旧大分県立図書館が転生竣工した時に、若い芸術家をバックアップしようするアートブラザーという会が1997年に発足しました。初代会長は、岩田正の次男の英二です。発起人には磯崎も加わっています。ヨーロッパの芸術にはパトロンがいる。これと同じように、アーティストを発掘し、育てる『だんな』の集まりを目指す。大分市を芸術的雰囲気を持った街にするため、広く全国を対象に募金していく。将来は何か事業をやって基金つくりも考えている” (by大分合同新聞)

芸術・建築・文化を支える人々の熱い思いがこのアートプラザを取り巻く大分の地に感じることができるので発表させていただきました。

当日の模様

MAS第40回の模様1 MAS第40回の模様2 MAS第40回の模様3 MAS第40回の模様4

アンケート

ご参加された皆様、アンケートへご協力いただき誠にありがとうございました。
ご協力いただいた方の中から一部をご紹介させていただきます。

第40回アンケート1
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
街歩きワークショップを知りたかった
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
町づくりに時間がかかる。住民のやる気!?はどうか?
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご記入ください。
建築のやくわりは?箱物を作る(造る)だけではないというコトですかネェ〜失礼!!
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご記入ください。
無回答
また参加したい
第40回アンケート2
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
街づくり、街の再生に関する話として
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
地元の大学の関わり方、ノウハウ
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご記入ください。
差し障りない範囲で、参加者の仕事がわかると意見の背景が分かってよいのではないか
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご記入ください。
インバウンド/外国人居住者と建築
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第40回アンケート3
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
建築家大会について
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
建築に関わらず地域の人々の心に深く根づくまちづくりをしていくことが大切だと考えた。
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご記入ください。
何か1つのイベントや連携が地域を大きく変えることはあまりないと思う。ただ、小さな出来事が人々の関心を産んでいく。
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご記入ください。
無回答
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第40回アンケート4
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
新しい知識や視点を得られること。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
プロセル・プランニング論
時間とともに成長する建築
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご記入ください。
新しい視点を得られる会で、毎回参加してよかったと思います。
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご記入ください。
ジェンダーと建築のありかた。
生物的性別と社会的性別の区別
(ジェンダーレストイレなど話題になったので)
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第40回アンケート5
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
建築家大会報告
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
九州 豊の国・大分 磯崎新・別府のまち
エジプト カイロ 平安京
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご記入ください。
無回答
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご記入ください。
無回答
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
無回答
第40回アンケート6
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
新たな視点を学ぶこと。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
街づくり→街そだて
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご記入ください。
今回は、少ない発表者からしっかりと発表があり良かった。いつもの形式は、少々コマギレ感があるので、今回のような形式はより深い思考につながった様に思います。
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご記入ください。
都市計画
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第40回アンケート7
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
今回、報告会ということで開催された催しの内容に興味があり、なにか発見をかんじられるのではないかと思い参加させて頂きました。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
街づくり街育て
観光的であることが大事ではあるが、現住民が納得したものに進展していけるのかが一番大事ということが共感したポイントです。
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご記入ください。
恥ずかしながら旧大分市民図書館や磯崎氏など、すべてお初のお話が聞けたことに感謝申し上げます。
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご記入ください。
またこのような報告会のお話をもっと伺いたいと思いました。
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい

関連資料(PDF)

  • A4版(セミナー概要)

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