JIA港地域会日本建築家協会 関東甲信越支部 港地域会

JIA港地域会 活動報告

第37回 建築を女性の視点で再考する

第37回 MASセミナー
日時
2023年10月7日(土)
14:00~
場所
日本建築家協会 JIA館1F建築家クラブ
パネリスト
村上晶子宮田多津夫今井均武田有左田口知子連健夫
その他の参加メンバー
大倉冨美雄
司会・進行
湯本長伯

村上晶子台所 ー キッチンから見えるもの
村上晶子

女性の視点から建築を視ると、社会構造との関係のひずみを様々な場面に見つけることができます。身近な空間の事例のひとつが台所(キッチン)に見出せます。最初の写真は高山で酒造業を営んできた豪商吉島家住宅です。明治の時代に建築されて何度か再建されてきた有名な住宅で、現在も吉島家によって所有され一般公開されています。写真にあるように主人の囲炉裏空間と、女子供の囲炉裏空間が完全に分けられてその間には土間で隔てられています。素晴らしい空間ですが、完全に主客には良い場所がとことん素敵に用意されていますが、女性は土間の奥の空間です。この例でなくとも、私の経験として思い出されることもあります。幼少の頃お正月などでも、廊下で隔てられた台所に女性は準備のために忙しく動き回り、男性は客間で楽しそうに宴会をしていたのを子供心に理不尽だと記憶しています。その時の悲しい記憶もあり、建築家として山荘を依頼された時は、徹底的に仲間外れにならないキッチンを創ろうと思いました。そのためにはお皿を洗ったり料理を作る人とそれを囲む人の目線の高さを同じになるよう設えました。実際に使うと昔の台所に寂しく取り残された感覚が払拭されて居心地の良い食事会ができました。建築空間のちょっとした工夫で誰かが取り残されて寂しい思いをしなくても良い例としてここでは挙げました。

宮田 多津夫 母性のある家と街
宮田多津夫

女性には母性がある。母性は「根拠のない安心感」であり、規律を重んじる男にはできない愛がある。家には母性が必要で、疲れた心身を癒すために出迎える場が重要である。そのことを強く感じたのが吉村順三設計の「猪熊弦一郎の自邸」である。夫人がいる場が家の中心にあり、家族やゲストを出迎える重要なポジションにあり、この空間は母性につながると感じた。「人を出迎える、人を見守る、人をもてなす」そのことを吉村は追求したから、母性的な温かさが生まれたのだろう。

街並みで母性を感じたことがあった。四国の四万十川が流れる奥地に「檮原」という街がある。街全体が山に囲まれ雲に包まれたような景色なのだが、その街で夕暮れに高校生が「こんにちは」と挨拶をしてくれた。しかも3人連続で。温かく迎える人たちがいた。梼原の街にはいくつかの仕掛けがある。通りにはベンチがあり、人を優しく迎えている。近くの図書館では、芝生の広場で子供が遊んでいた。塀のない幼稚園が隣にあり、取り囲む公共施設とその利用者が子供を見守っている。セキュリティで固めた都会では味わえない安心感に包まれていた。「母性がある街」は男社会の都会にはない可能性を秘めているはないか。

今井均建築を女性からの視点で再考する
今井均

現代において男と女の社会的なヒエラルキーがどんな場面で観られるだろうか?

近代国家を成し遂げ、少なくともデモクラシーを標榜しながら育成してきた日本人や同様の他国の人々を国際的な場面や政治、文化面、教育、などでみるかぎり、近年において僕はあまり女性と男性の置かれている差異は感じていない。

部分としての男性社会としての優位性はその時間的経緯からまだ様々に観られるかもしれないが、そのことと、一方で男と女の本来のあり方の違いを認め、その部分を大事にすることこそ人間社会として目指すところでありたいと思う。

『人間は自然の一部である』という先達の言説を考える時、男と女に与えられた自然の部分と教育を始めとする文化面、社会面でのあり方はよく見極めることが肝要だろう。 男らしさ、女らしさ、は現代においてこそ益々必要な人間性であって欲しいと願う。そのことを社会生活や家庭のなかで、どう表現しているかで、その方のセンスが観られているのではないか。

武田有左ユダヤ教信者の頭にはキッパという皿型の帽子が・・・
武田有左

女性と男性の思考方法の違いが何処にあるか、ユダヤ教でキッパを被るのは男性だけという話からヒントを得ることで考察をしてみた。

テクノロジーの発展の中で、昨今、注目を集める量子コンピュータは、此までの古典コンピュータのアルゴリズムとは全く異なった、量子力学の法則を利用して解くコンピュータと言われる。

量子コンピュータが、「0」「1」で表される情報(bit)を高速に演算することで答えを導き出す古典的論理回路と大きく違うところは、素粒子の世界で見られる状態である重ね合わせや量子もつれなどを利用して「0」「1」と、その重ね合わせの状態を取れる(量子bit)という原理から、従来の電子回路などでは不可能な超並列的な情報処理を行うことである。

人間の脳の仕組みも、量子論によって解き明かされようとしているが、この超並列的な情報処理と言うのは、芸術家の直感に繋がるものだと私は考える。

限られた情報量の中で確実な答えを導く古典コンピュータが学者脳(男性脳)だとすると、超膨大な情報の世界から瞬時に(直感的に)答えを導く量子コンピュータは、ある意味で芸術家脳(女性脳)と言えるのではないだろうか・・・

今日の学校教育は言語化・数値化に重きが置かれ、すなわち学者脳の育成に比重が傾いて仕舞って居るように見えるが、同時に大切な芸術家脳を育てることも併せて必要だと考える。

田口知子女性の視点でつくる建築
田口知子

「家」とは何か。プライバシーが守られ、自由にくつろぎ、食べること、寝ること、家族と過ごす安心できる場所、と考いう役割をあたりまえのように期待してきた。しかしコロナ禍を通して、家に閉じ込められる、仕事場にもなるという可能性を体験した。都心の家では、往々にして家族みなで仕事をしつつ生活するには広さが十分でない、という事態にも直面した。仕事と暮らしが近い、ということは、生活全体の在り方を変えていく必要がある、そこに次世代の生き方のヒントが隠れているのではないかと感じている。先日たまたま立ち寄った富山の散居村の風景や、古い養蚕農家の世界遺産の五箇山集落を見て、今回のテーマを深く考える機会になった。働くこと、住むことが一緒になって土地と強くつながっているという生活がそこにあった。近代はその生活から脱出し、街に暮らし自由になった。そして貨幣経済が私たちのコミュニティーを解体し、自然からの疎外、人のつながりの分断が問題であることに気づきはしめたアフターコロナの今。人の健康になるために必要なこととして、地域や土地につながる住まいの可能性について考えたことをお話した。家が、プライベートな閉じた器ではなく一部に小さくパブリックな機能、仕事や地域にかかわる部分を持つことが、充実した人生のための器となり、街が豊かになるための器となっていくのでは、と期待している。

大倉 冨美雄女性を抑え続ける歴史
大倉冨美雄

いつの間にか高齢化。そのせいか、「過去」が何だったのか、関心とこだわる年となった。

そこで、「女性の視点」への建築や建築家の想い以上に気になるのが差別の意識。

私事だが、母親が60代のある時、「離婚する」と言い出し、止めるのに苦労した。

それは、あまりにも遅くなって自我の自由を再認識し、夫から独立したいと思った気持ちの表れだったのか。思えば、戦中の護国奉仕から戦地の夫を想い、家と子供を守り、生きて帰った戦後は夫の会社一途に従ってきた。しかし定年になった夫は家で我儘を通し、母の居所が無くなったのと、子供が独立し出し、初めての余裕がこの気持ちを生んだのではないか。

これは家や街への想い以前の問題だし、個人的な夫婦間の問題で、女性差別の問題とは違う、という人もいるかも知れない。しかし2人が言い争いをしたのを見たこともなく、仲が悪いと思ったことも無かった。言い換えると母は、耐えて生きるのが女の宿命、とずっと思い込んできた節がある。差別は、女性を抑えて見る社会、それに乗る国の形の継承だったのだ。父もそれに乗ってきた。

この小さな事例から考えても、如何に日本社会が女性を封じ込め、それが公然と社会の底流に残って来たかを思い起こさせないか。

湯本 長伯女性の視点から
湯本長伯

湯本長伯

世の中のこと、何でも視点を代えてみることは大事です。

女性の視点からというと限られているようですが、多様性の中に個々の立場や考えが埋没するのは、誰もが尊重されることとは違います。

一人一人が違いを尊重されることをどう実現するのか、かなり深い考察が要るようです。

多様性尊重とは、先ずは違いを認め違っていることを前提にし、その違いは様々な恩恵をもたらしてくれる貴重なものだ、そう認識を改めることが継続的に重要だと思います。面倒なことではなく有難いこと、それが難しいのですが!

当日の模様

MAS第37回の模様1 MAS第37回の模様2 MAS第37回の模様3 MAS第37回の模様4

アンケート

ご参加された皆様、アンケートへご協力いただき誠にありがとうございました。
ご協力いただいた方の中から一部をご紹介させていただきます。

第37回アンケート1
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
さまざまにご活躍されている先生や建築家の意見を聞き、なにか一つでも新たな考えを見つけたいと思ってきました。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
トイレと自然と公共とプライバシーと一つのきっかけから、多様な考えが生まれている環境にいれて共感しかなかったです。
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご記入ください。
日本の社会性が生んだ問題や発信力なあど、女性に関わらず多様性を考える機会を頂きました。
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご記入ください。
無回答
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第37回アンケート2
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
無回答
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
男性、女性と無理に分けずに考える方が良いと思いました。
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご記入ください。
普段、あまり意識していないことを考えさせられて良かった。
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご記入ください。
無回答
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第37回アンケート3
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
様々な切り口でこのテーマについてのお話が聴けることを期待し、期待通りでした。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
無回答
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご記入ください。
オープンディスカッションが面白かったです。
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご記入ください。
無回答
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第37回アンケート4
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
様々な意見を伺うこと。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
椿原の壁の無い街。
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご記入ください。
今回は建築というよりも、社会についてのテーマであったと受け止めました。そんなテーマも取り上げられて素晴らしい!
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご記入ください。
都市計画(都市って経済の工場!?)
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい

関連資料(PDF)

  • A4版(セミナー概要)
  • A3版(当日講演するテーマについて建築家からのメッセージ)

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