JIA港地域会日本建築家協会 関東甲信越支部 港地域会

JIA港地域会 活動報告

第34回MASセミナー活動報告 『街とつながる住まい方の提案』事業計画とセットで作る「稼げる」住まい

第34回 MASセミナー
2021年12月11日(土)
15:00~
Zoomオンライン
日吉坂事務所  寳神 尚史 (ほうじん ひさし)氏
司会・進行
連健夫
 
港地域会 参加メンバー
田口知子大倉冨美雄村上晶子武田有左宮田多津夫湯本長伯

このコロナ禍にあって、普段暮らしている地元の街に目を向けた方も多かったかと思います。今回は建築設計業を営むかたわらで、自らが事業主となり、街のにぎわいに貢献する建物を設計・運営している寳神尚史氏に、「街とつながる住まい方」というキーワードで、どのようにして建物を生み出していったのか、そしてその魅力、運営ノウハウまで語っていただきました。

連健夫含有する建築まちづくりの視点
連健夫

面白いレクチャーだった!従来の設計行為は請負型なので仕事に波がありマグロ漁師に似ている、そこで設計者自らが不動産事業をすれば事業収入が得られ安定する、これをマイクロデベロップメントと言う、から話は始まり、2つのプロジェクトを通して、その意味合いを分かりやすくプレゼされた。寶神氏の話の中で気になった言葉は、「自ら事業者となり、暮らし方と街のこれからに働きかける」である。氏の建築は単体ではあるが、街との関係を捉えている。事業として成り立つためには当然であるが、見落としがちである。これは路地を敷地内に作り建物内部にそれを引き込むデザインにも活かされている。これは広義の意味でのまちづくりであり、「建築まちづくり」と言える。従来の建築家職能においては、モノとしてデザインとコトとしての使われ方の2つの要素を扱っていたが、寶神氏は、これに加えマネージメントという第3の要素を扱っているところに特徴がある。ここに建築家の職能の拡がりを感じることができる。建築まちづくりにおいてエリアマネージメントを扱うことはとても大切であるが、正にそれを自分のお金を使って責任を持って実施されている。アッパレと言いたい。

田口知子これからの社会に求められる建築家像とは
田口知子

今回のMAS34 寶神氏のレクチャーわかりやすいと同時に、深く考えさせられる内容だった。
今、建築家の仕事の意味は大きな岐路に立っている。新たな建築をつくることを前提とし、デザイン、使い方などに特別な魅力を付加し、人を集めたり、喜びを与える空間の創造を得意とする建築家の仕事は、ともする、新しい建築を、美し建築を新たに作り続けないといけないう想いが強すぎる傾向がある。しかし、このSDGsの時代、新たにつくるよりも、今あるものを維持し、有効に活用することのほうが、社会にとって重要なテーマである。そうすると、建築家の仕事は先細りであり、継続的、持続的に、社会に貢献でき、収益を得る仕事を創造する必要がある。そのときに、不動産デベロップメント、あるいは建物の経営は一番近いところにあるのかもしれない。
建築家としての土地を見る目、建物の価値を上げるデザイン力、まちづくりへの視点、それらをあわせもったマイクロデベロップメントは、建築家の仕事として、大きな可能性になると感じる。もちろん、寶神氏が行っているように、自らリスクを負う以上、設計力や事業性への鋭いセンスが求められる。そのような力を持って、他者のための建築の設計をすることもまた、同価値を持ち、建築家の仕事は求められ、途切れることはないだろう。建築家の仕事の可能性をひらく寶神氏の仕事に喝采を送りたい。

大倉 冨美雄寶神流の未来は?
大倉冨美雄

寶神さんの理性的な語り口、ストーリーのセッティングに感心しました。新しい世代の登場です!(もう旧世代ですので、敢えてこういう言い方を)。

言いたかったことは、「それでいいんですよ!」です。だからこそ、その旧世代感覚から言うと、そこに歴史認識が加わり、「どうしたら寶神流を建築家の主流に出来るのか。或いは他の道があるのか」が、関心の中心でした。そこが皆さんと論点の差だったかも知れません。

その上で言うと、現在の資本主義経済の強圧力と、一方での、これに対する個人からの経済転換点の模索の渦中にあって、寶神さんのやり方が上手く機能してくれることが、今後の建築家像の大きな指針になるだろうということです。

「借金も理念の有意性がカバーする」というのは、実際には相当の能力と経験と体力を必要としませんか? 寶神さんだから出来た、というのでなく、出来れば、その考え方と行動力が、建築家の主要なルールになって欲しいこと、それに、日本社会がそういう建築家像を、好意と高位で受け入れてくれるようになって欲しいことを考えていました。そのためには、どうするべきか、と。

村上晶子寶神さんの原風景
村上晶子

寶神さんと私とのご縁は今を24年前に遡ります。まだ学生だった寶神さんにアルバイトに来ていただいたことが始まりです。当時から柔軟な考えをもたれていてコンペにも入賞されていましたが、頭の固いこちらには理解できない不思議な案でよく覚えています。卒業設計でも都市の屋上の片隅の空間に着目していたのが印象的だったこともありその後もずっと注目してきた方で寶神さんの原風景からと思います。

相手の懐に柔和に寄り添いつつご自分の世界を協働していく手法はこれからの時代に必要不可欠なことだと思いますが、寶神さんはさりげなく静かな情熱で実現しています。何よりも素晴らしいのは1つの建築が周辺を巻き込みその街を良くしていく考え方で、若い人に生活の楽しさを与えていけるようなものの起爆剤となることに彼自身がミッションを持って取り組んでいることです。今回お声をかけたのは、新しい建築家像、多様な建築家像のひとつとして広く知ってほしいと思ったからです。

武田有左設計の上流である事業計画への取り組み
武田有左

今回のMASセミナーでは、建築が資本の原理に振り回されない為にも、建築家が設計の上流である事業計画に踏み込んでいく事が如何に大切であるか、良い話を聞く事が出来た。

建築教育に於いても10年程前に、大手不動産会社設計部での経験を買われ、私が立ち上げる事になった「建築企画」という授業では、私のほか不動産業を主体に建築設計も行っている若手建築家の先生と供に、その重要性に付いて教えている。そこでは、設計の与条件を定める事業計画に建築家が入る事で、建築としての質を高めると同時に、事業計画のお手伝いから入る事で設計の仕事に繋げられるという側面に付いても伝えている。我々の世代の大学教育では、建築家は営業をしてはならないと学んだが、そこには時代の変遷を感ずる。

しかし一方、建築家が安易に事業に投資する事には、そのリスクの大きさから厳に慎むべきとも語っている。嘗て私が所属した会社では、ビル事業部門・不動産部門・設計部門が3つの柱として謳われて居たが、後に設計部門は会社本体から切り離される事になった。その理由として、ビル事業投資での巨額損失が、その遠因と言われていることを記しておく。

宮田 多津夫 新たな職能価値を考える
宮田多津夫

寶神さんのセミナーは、建築家の職能を問い直す時間であった。彼の話を聞いていると、新たな建築家の姿が浮かんでくる。旧来の建築家を「大間のマグロ釣り」に例え、大モノを狙っては食えなくなるから、設計に不動産事業を組み合わせ、家賃収入を含めた安定した収益で、建築家という職能を自立させる。この発想には頭が下がった。こんな発想を持つ若手建築家がいたとは。地域会の月例会議で初めてお会いした時、同じ話をされたのだが、今回のセミナーでやっと理解できた。好きな建築をつくるために、もう少し広い分野に手を伸ばす。ひとりの建築家が生きる術として素晴らしいものだ。だが、大倉さんが言わく、簡単に見えてだれでもできる才能ではない。少なくとも日本の建築系大学ではそんな才能は磨けない。彼の話を聞いていると、今の建築家に求められる新たな課題が見えてきた。自分で好きな建築をつくるために、自ら開発し、入居者を探し、素敵な街の一角を作り出す。そして、街に元気を作り出す。パトロンに頼らない新たな建築家像である。寶神さん、素晴らしいセミナーありがとう。

湯本長伯

 『設計行為に正解を探す』

私は大学で設計方法を研究教育して来たので、建築は眼に見えるハードウェアだけでなく背景にあるソフトウェアも持つと思って来ました。そのソフトの根幹である存在定義から細部設計までが十分に考えられ行届き保たれている建築が長生きし、良く使われ愛されていると思います。その存在定義・設計のことを「プログラム」と呼びますが、此れが社会に適合していないと早晩壊されてしまうと思います(H先生の眉山ホール等)。

寶神先生講演を此のプログラム論から見ると、建築界を取り巻く現状も良く解り、施主側から与えられる不適合な設計条件を鵜呑みにして設計をすると、サステイナブルでない結果を招き、且つ設計者にも大きなリスクになります。

設計方法研究で出会ったC.アレグザンダー氏は「設計には正解があり正解を目指すべき」と言いましたが、寶神先生の事業と設計を同時に行う試みは、①建築の社会的無駄を極小化し、②建築家のリスクを極小化してくれる可能性のある「正解の一つ」だと思います。
※設計者自ら事業主となればもっと行き届いた設計が可能になり、日本建築界の発注下手損失が減少
※コトが正しく成立しモノが的確且つ魅力的に設計され更に街と繋がる(人と繋がる)ことが、コトとモノに価値と魅力を与える

アンケート

ご参加された皆様、アンケートへご協力いただき誠にありがとうございました。
ご協力いただいた方の中から一部をご紹介させていただきます。

第34回アンケート1
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待し参加されましたか?
今回のテーマに大変興味があったのでまず講演者のお話をじっくりお伺いしたいと思っていました。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご入力ください。
私は建築は全くの門外漢なので見当はずれかもしれませんが、このところずっと、私もミニミニミニミニ三菱地所のようなことを漠然と考えていたところでした。少しずつ土地を買い広げていって快適な住環境を作っていってそこから安定した適度の収益を上げていって自分もそこに住んで最後まで自分の作品に対する責任を取り、生活の基盤を安定させてそこから自分がやりたいことをじっくり腰を据えて取り掛かり始めるというコンセプトに共感しました。建築の門外漢が聞いても、というか、門外漢だからこそ強く惹かれる在り方かなと。組織に依存せずにどうやって生活基盤を安定させられるかという観点から興味深く拝聴させていただきました
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご入力ください。
質問も含めて非常に興味深く面白いと思いました。建築は本当に何も知らないので、青木淳という方のことも初耳で、ネットで調べて対談など読みましたが大変勉強になりました。
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご入力ください
https://www.youtube.com/watch?v=4VPH3x1lKlg
先日たまたまこういう動画を見ていて面白い話だなと思っていました。秋吉浩気さんの、誰もが設計者になる社会を目指すという話が面白いなと感じたのですが、これからAI技術の急速な発展で我々のような全くの素人でも設計に携われるような時代になったら都市設計はどうなるのか、プロの建築家と我々シロウト設計者との関係はどうなると理想的なのかなど専門家の方にお伺いできるとうれしいです。このところ、素人もある程度は建築や設計、都市計画に関する教養が必要になってくるんじゃなかろうかと考えていたところなので。
https://www.tansei-hnt.com/media/column/workforteens_vuild
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
ご感想・メッセージ
先週たまたまタタルスタンで仕事をしている人の話をお伺いする機会がありました。タタルスタンで日本の建売住宅を建築して販売しているそうです。以前東大の建築科の院生から、中央アジアで日本の建築家が先進的な仕事をしているという話を聴きました。私も詳しい話はわかりませんが、一般的な建売住宅から最先端の建築物まで、中央アジアに限らず、日本の建築は結構世界で流通してるのだろうかと考えていました。まったくの門外漢の漫然とした感想で申し訳ありません。
第34回アンケート2
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待し参加されましたか?
JIA港地域会MASセミナーを聴講しCPD継続教育向上とセミナーでの新たな観点からの話題や考え方などを勉強し今後の知見等に役立てたいなどを期待する。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご入力ください。
建築と不動産は関係する業種と考える。セミナーの設計者であり事業者であり地域居住者としての活動内容を興味深く聴講しました。
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご入力ください。
JIA港地域会MASセミナーの雰囲気・イメージを感じられた。
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第34回アンケート3
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待し参加されましたか?
街とつながる住まい方の提案とはどのような方法なのか、どのような理由なのかを知りたいと思い参加しました。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご入力ください。
まちづくりには色々な参加の仕方があって、街の1区画から始まって、そこから街の印象を作り、人が集まり、街が元気になる、みんなが幸せになる役割を建築が可能とするのだと、興味と共感を持ちました。
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご入力ください。
"私の住んでいる街は、空き地が出来ると、安価な建売住宅が小さい規模でいくつも建ち、魅力あるまちづくりという考えは無いようです。こうして新しく住民が増えるのに、みんなが集まる場所がほぼ無い状態です。戸建住宅ができる一画に魅力あふれる共有スペースをつくるのはとても良い事だと思いました。私もそのような活動が将来出来たらいいなという目標が出来ました。また、寶神生の世界観やセンスなどとても素敵で、勉強になりました。細かなところまで気を使い、デザインされ、素材にもこだわっている点は自分が課題に取り組む際には、ぜひ意識していきたいと思います。"
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご入力ください
学生が、学校では学ばないが大事な事をテーマに取り上げてほしいです。学生が、学校では学ばないが大事な事をテーマに取り上げてほしいです。
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
ご感想・メッセージ
寶神先生のお話しはとても興味深く、全く違った視点で新しい世界を知りました。内容も単調ではなく、大間のマグロが出てくるくらい、驚きとユーモアがあふれていました。
第34回アンケート4
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待し参加されましたか?
建築物が町にどのようにかかわっているのかに興味がありました。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご入力ください。
物作りにおいて、細部までこだわって作りこむことに、すごく興味がわきました。
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご入力ください。
建築はまだ勉強中なので、先生方の意見交換のお話が難しくて理解できない部分もありました。でも、聞いていて、すごく楽しくなりました。
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご入力ください
建築物の維持管理についても、興味があります。
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
ご感想・メッセージ
素人でも参加でき、専門家の方々のお話がきけて、勉強になりました。ありがとうございました。
第34回アンケート5
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待し参加されましたか?
若い建築家の方の考え方や価値観の一端が垣間見ることができるかと
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご入力ください。
モノからコトへ人々の価値観が変わってきていること
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご入力ください。
同じようなことを感じられている方が多かったことが今回のセミナーで見受けられたこと
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご入力ください
withコロナの世界でのこれからの建築について
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第34回アンケート6
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待し参加されましたか?
建築に携わる方々並びにそうでない方々等、色々な意見を聞く事への期待をして
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご入力ください。
「街とつながる住まい方」「受け身の姿勢ではない自らが事業主となる行動力」
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご入力ください。
資金や事業継続等々リスクを考えてしまいがちですが、小さな事でも街に住むことを楽しくする何かを模索しようと考えさせられたセミナーでした。
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご入力ください
街づくり
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
どちらでもない

関連資料(PDF)

  • A4版(セミナー概要、アクセス方法など)

関連リンク


PAGE TOP

※当サイトで使用している画像等を、許可なしに掲載したり、著作権者の承諾なしに複製等をすることはご遠慮ください。
© JIA 日本建築家協会 関東甲信越支部 港地域会