JIA港地域会日本建築家協会 関東甲信越支部 港地域会

JIA港地域会 活動報告

第33回 「ウィズコロナ時代と建築」拠り所を求めて

第33回 MASセミナー
2021年3月20日(土)
14:00~
Zoomオンライン
パネラー
村上晶子連健夫田口知子今井均大倉冨美雄武田有左宮田多津夫湯本長伯
司会・進行
連健夫

2020年のコロナ禍は人と人との関係に大きな変化をもたらしました。家族との関係がより身近になると同時にWEBの力によって遠方の人々との交流が密度を増しています。しかし、今まで日常的に交流のあった人と人の関係は日増しに疎くなっている状況は否めません。このような変化の中で私たちは「拠り所」をどこに求めていくのでしょうか?ウィズコロナ時代の生活空間、私たちの習慣の今後のあるべき姿、建築に出来ること、建築の未来を、原点にたちかえり考えたいと思い、慣れない中での初めての遠隔マスセミナーとして開催しました。

村上晶子建築は記憶を担う
村上晶子

感染症は都市問題ですが、ある意味コロナ禍は人口集中による劣悪な環境見直しの機会が到来しているともいえましょう。地球が、自浄作用として私たちに課題をつきつけているようにも思えます。なんだか宇宙空間に放り出されたような今こそ、心に空間の原風景を持つことが、拠り所として大切ではないでしょうか。ある時、大学の設計課題に学校建築を考えさせたときに、ショックを受けました。「先生 僕の学校は小・中・高とただの箱だったので、何もイメージできません」・・・当たり前のことですが、空間体験がないんです。映像で見たことがあっても、皮膚間感覚で、体験していないことは、彼らにとってイメージできないことに気が付きました。今は建築家による良い学校建築が作られてきていますが、まだまだ少数です。今こそ、感性に訴えるものづくりの価値は真剣に見直されるべきだと感じています。建築の力は記憶に結びつき心の拠り所となるものです。心の中に空間の原風景を持つことは人が生きる立脚点として何より大切です。建築は私たちに原風景となる拠り所をつくりだす力があるといえるでしょう。岡山の旧閑谷学校はまさに好例だと思い挙げさせていただきました。

連健夫建築と街・自然との間が拠り所になる
連健夫

縁側はとても気持ちが良い場所です。のんびりとお茶を飲んだり、将棋をしたり、お隣さんとの応対もできます。これは家と外の間に位置し、自然を感じることができる場だからですね。コロナ禍の中、国土交通省は道路を活用した地域活動事業において、歩道の一部を無料で使っても良いという思い切った施策を行い、浜松市は「まちなかオープンテラス社会実験」を実施しました。お店と歩道とが繋がり、人と人とのコミュニケーションが生まれています。建築家の友人自邸の屋上は気持ちの良い外部のリビング的な場所とのこと、コロナ禍でも換気十分、食事も楽しめます。当方が設計したシェアオフィスのある複合ビルの事例では、1階のピロティーにベンチを設け、近所の人も座ることができます。地下の雨水槽と繋がった手動ポンプは普段の水巻きのみならず、災害時にも役に立つと思われます。ルーフテラスは外気と接した縁側的な場と言えますね。増改築設計の事例では大きな庇を設け、ウッドデッキに雨がかからないようにしました。パソコンを持ってくれば気持ちよく仕事ができますね。現代建築にも縁側はデザインを工夫すれば十分に馴染みます。つまり、WITHコロナ時代において、外と中の間をうまくやりくりすれば、昔の縁側的な、換気十分で気持ちの良い場として、人の繋がりと自然を楽しむことができるのです。

田口知子建築という拠り所
田口知子

ウイズコロナによって、家に籠りテレワークが推奨されている中、人が集まる場所が閉鎖され、集会する機会が奪われていることは人間にとって、とても大きなダメージであると感じる。建築は人が喜びや誇りを感じて集まるためのものとして、文化的意味を担ってきた。その建築の役割が大きく揺らいでいると感じる。しかし、建築が屋外空間とともに快適なデザインを持つことは、自分としての建築の理想であり、建築家ルイス・カーンの傑作カリフォルニアのソーク研究所を思い浮かべた。屋外空間が中心にあり、細菌の研究施設としてノーベル賞を数多く輩出している医学研究所だ。しかし、この建築はカリフォルニアだからこそ美しく、機能的であるともいえる。

日本の北陸や東北など、多雪地帯などは、大屋根の中に閉じることが必要な形であった。風土に応じて建築を考えること、換気や断熱、蓄熱といった性能を、その場所の気候にあわせてデザインする環境建築が、ますます求められていると感じる。そして、地域の材料、持続可能な建築、持続可能な人の暮らしのデザインをデザインの目標とする時代へ、大きなパラダイムシフトが加速することが求めらると感じる。

今井均頽廃的世界観で思い出されるワイゼンホフのジードルンク
今井均

全世界的に新しい感染症コロナの拡がりは、なり振り構わぬグローバル化に対する警鐘であろう。そんな悲観的ななかで、僕に思い起こさせのは、ほぼ100年前(1927年)に建築家によって起こされた爽やかな意味でのグローバル化のことだ。ヨーロッパの主要都市から17人の建築家が選抜されドイツ・シュツトガルト、ワイゼンホフの丘に建設、展示されたシンプルな外観をもつ建築群は真新しい意匠の内に新しい人間生活の萌芽を主張していた。それらは其の後、世界中を席巻する建築のスタンダードとなる。彼らは其れまでのヨーロッパの伝統を引き継いできた様式美としての建築の重圧から産業革命をテコに建築をそれまでの装飾的意匠から離脱させ、建築そのものを純粋に機能、構築することに傾注した。僕はそのことを開花させた先見性と反骨精神に基づく勇気にこそ今のコロナ禍で新たに称賛している。この展示会を主催したドイツ工作連盟のミースやその後のバウハウスを牽引したグロピウス、そしてフランスから参加したコルビュジエは世界中の若い建築家から指示された。いま今日の建築のデザインの基礎が作られたことに心を馳せたのはグローバル化の根底に欲しいものとして、共通の健全性に富んだものへの憧れからかも知れない。

大倉 冨美雄通気と脱炭素
大倉冨美雄

コロナ禍になって、社会の見方が随分変わりました。個人的な感想としては、「建築家である」という自負や、そこからの意識以前に、人間としての「拠り所」が何なのか、が改めて問われていると感じざるを得ません。
そこで感じていることは、現代人の根底に関わる問題で、開催案内でお伝えした主旨を、オンライン会議では図解で示したように、「頭(脳内)は、情報や規制で一杯、体は、経済と科学技術の責めで首まで浸かっていて、身動きも取れない」という窮状です。
ここには資本主義と民主主義の行き詰まりが見えていて、その上で組織化された現代の社会体制そのもののあり方が問われている、となります。となると、教育だの、政治改革だのと言っている前に、これに気が付いた個人に何が出来るか、が問われていることは明らかです。受動体は明らかに、肉体を抱えた「一人だけの個人」だからです。
それを承知しておいて、建築家であろうと、誰であろうと、個人に出来ることを足元から考え、改革出来ることを実行していくことが最大の要点となりそうです。これが今求められている「拠り所」なのだと思うのです。
個人に出来ること、それが「建築家」なら結果として、僅かでも地球温暖化に対抗する処方を設計に組み込むこと。それが「脱炭素」ということであり、一方、自然を建築に取り込むこと。その象徴が「通気・換気」だということです。

武田有左デジタル環境の進展と供に脳がデジタルに直結する程・・・
武田有左

新型コロナ感染拡大の中、100年前のスペイン風邪当時との大きな違いとして、パンデミックの中でも人々を繋げる手段として、デジタル技術の有用性に光が当てられました。
パソコン画面に向かって資料作りに励む姿は、既に日常の光景となって居ましたが、その資料を使った打合せや授業までもが、オンラインでPCに向かう事になり、朝から晩までディスプレーを眺め続ける生活は此までに無かった新しい経験といえます。 ICTの広まりの中で、脳がデジタルに直結すればする程、身体的にはアナログ的心地良さを求めることに、誰もが気付かされたのではないでしょうか。IT化と供に未来のオフィスはリビング空間に近づいて行くと言われたのは、もう四半世紀も前のことでしたが、コロナ蔓延の中で誰もがその事を実感する時が来たように思います。
一度パソコンに向かえば、経理の仕事もクリエーターの仕事も同じ姿勢で進められる時、そこに求められる空間には、これまで語られて来た「機能性」とは別の「心地良さ」とでも言うべき要素が必要になって来ていると考えます。自然の中でのワーケーションは、建築だけでなく、様々な問題を抱える都市問題すらも解決する糸口になるのではないでしょうか。

武田 資料

宮田 多津夫 都市に縛られない屋上庭園(宮田多津夫

コロナ禍での人の行動が制限され、街に繰り出すことや人に出会うことに不都合を感じている人は多い。三密にならずに出会える場所があれば、感染リスクが少なく安全である。
では、都市で暮らす我々の拠り所はどこに求めればいいか。その答えが100年前にあった。1920年のパリ。その頃は大戦で世界中にスペイン風邪が蔓延し都市生活や飲食が崩壊。生活と都市の関係性が密になり感染を増大させていた。その頃、一人の建築家が近代建築5原則を考え始めていた。その一つに屋上庭園がある。自由な近代的生活に対する解決策であったが、感染症対策にも素晴らしい効果がある。スペイン風邪流行の11年後に完成したサヴォア邸に秘められた感染症に対する備え。屋上庭園は、広がりがあり、会期に開放され、しかも外界から隔離されたプライベート空間である。そこにはコロナ禍でも生きるヒントが隠されている。日本住宅は屋根が多くあるが、改善しフラットルーフにしてみたらどうか。2階のテラスから屋上への階段を上がるとそこは守られたテラスでありアウトリビングとなる。食事や団らん、読書やバスでも設置可能。屋上庭園は、コロナ時代の優れた拠り所になると思う。

湯本長伯

明日に繋がる社会変革の契機にしたい

多様な意見・考え方に言及する前に一言。日本は厄災列島であり、其処に日本文化の特色もあると言いたい。かっての日本には広く照葉樹林が広がり、食べ物には恵まれた土地だった。必ずしも稲作の生産性に頼らずとも、豊かな地だったと思われる。しかし地震・噴火・定期的な激しい気象・津波等の災害、そして時に疫病も訪れた。

日本独特の信仰に荒神信仰がある。祟り神を祭り上げ、少しでも災害を減らそうという考え方は、各地に祇園祭としてその歴史を残している。厄災は日本人にとり外からやって来るものだったが、昔から一緒に在るもの・隣人だった。

その人間を、衣服・道具・建築という外延は多様に護ってくれた。その建築が人を護る形も多様で、良い光・良い空気・適度な温湿度は変わらないが、厄災がその護り方をさらに進化させてくれる。港会の建築家が様々な場面と対応を示した。例えば働き方が変わるとオフィス建築も変わる。デジタルの道具も大事。更にその建築を、街が道具が支えねばならない。変わるものと変わらないもの。しっかり見極め歴史に学びながら、次の世界を考えて行きたい。

当日の模様

MAS第33回の模様1 MAS第33回の模様2 MAS第33回の模様3 MAS第33回の模様4

アンケート

ご参加された皆様、アンケートへご協力いただき誠にありがとうございました。
ご協力いただいた方の中から一部をご紹介させていただきます。

第33回アンケート1
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待し参加されましたか?
コロナ禍における建築がどうあるべきかについてご意見を聞きたかったため
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご入力ください。
キーワード:心の建築、居心地のいい、居場所、地域、地場、だれも取り残さない
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご入力ください。
様々なご意見を伺い有意義でありました。
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご入力ください
Society 5.0 の未来社会に対しての建築の在り方
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
第33回アンケート2
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待し参加されましたか?
多様な考えや意見を伺えること。
発言者が他者の意見を尊重する場であること。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご入力ください。
今回は「withコロナ時代と建築~拠り所を求めて」ということで様々な意見が出された。パネリストの意見は様々であったが、これからの時代を考えるという観点から皆が同じ方向を向いて話し合われた。今まで、これほどパネリストのディスカッションの方向性がまとまった回は無かったように受け止めています。
その他、今回のセミナーで感じられたことをご自由にご入力ください。
今回は初めてのWEBミーティングでしたが、大変うまくいったと思います。これは、参加者が信頼のおける仲間を集めたからでしょう。WEBで参加者をオープンに集めると、ミーティングを荒らす者も紛れ込む可能性があります。WEBでの開催には、参加者を注意深く集める必要があると考えます。
今後のセミナーで取り上げて欲しいテーマがありましたらご入力ください
今回の一般参加者の方から、今の子供は明るい未来を描くことができない旨の発言がありました。
「未来」の国土開発・都市開発・街・建築について興味があります。
今後のセミナーの参加について、以下のどれかをお選びください。
また参加したい
ご感想・メッセージ
とても楽しいひとときでした。有難うございました。

関連資料(PDF)

  • A4版(セミナー概要、アクセス方法など)
  • A3版(当日講演するテーマについて建築家からのメッセージ)

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