JIA港地域会日本建築家協会 関東甲信越支部 港地域会

JIA港地域会 活動報告

第31回 気持ち良い空間のための「繋ぐ」建築

第31回 MASセミナー
2019年7月6日(土)
14:00~トーク、16:00~懇親会
日本建築家協会
JIA館1F建築家クラブ
報告者
連 健夫

建築は、風雨から身を守るシェルターという役目があります。このために床、壁、屋根を設けることになりますが、光や風を内部に取り入れるためには、開口部を設け、外と中とを繋げることになります。
つまり建築家は、あれこれ工夫して繋げる設計により気持ちの良い空間を作っているとも言えそうです。空間的に繋げるか、視覚的に繋げるか、動線的に繋げるか、色々あるかと思います。各建築家がどのように繋げているか、建築の祖形との関係を含めディスカッションできればと思っております。

連健夫自然と繋ぐ、街と繋げる
連健夫

空、緑、水、外気など自然と繋がることにより、癒しや元気が得られます。また街と繋がることにより、地域との関係、社会との関係性が得られます。そのために開口部の工夫が求められます。外の空気に触れる場としてベランダやテラスは有効です。ウッドデッキは建物と街を繋ぐアイテムとして役に立ちます。共同住宅の集会室での子育て支援プログラムではウッドデッキで遊ぶ子供達がたくさんいました。窓は景色を見る、外の様子が分かるという役目があります。その意味で、景色を切り取るという額縁効果を捉えた様々な窓の設け方があります。窓のサッシ枠を見せない納まりにすると、天井に穴が開いているような不思議な効果が得られます。今、鮫洲に当方設計の5階建RC造の複合建物が建設中です。これは循環連鎖型ビルと称し、住居、SOHO、シェアオフィス、カフェ、ランドリーを入れ、それぞれ循環的に利用し合い、それが地域に連鎖していくという、地域と建物を繋げることを意図しています。災害時には雨水槽の水を地域の人も使えるというフェーズフリーデザインです。建築自由の法律、制度によりバラバラになっている問題がありますが、今後、何らかの形で街と繋がる建築デザインが必要と考えています。

今井均都市は『繋ぐこと』で成ってきた
今井均

街が都市(シティー)となった頃から、その時代の覇者によってどう『繋げられてきた』かを仏、parisの変遷を観ながら僕は考えてみた。パリは世界中の観光客に人気であることは変わりのないところだがその源泉は何処にあるのか、僕流にいえば、それは先達に対するフランス人としての良くも悪くも厳しいリスペクトが根底にあると思う。そしてその単位は双方とも個人の想いということが特長でもあるだろう。こう言ったことを理解するひとつの分かりやすい例として、西のエトワールの凱旋門から東にシャンゼリゼの大通りを2キロもゆくとコンコルド広場に繫がる観光客に人気のコースがある、その先にはルーブル宮(美術館)が壮大な姿を見せ、更に西のかつてのパリ のはずれにはバスティーユ広場がある、この都市軸はまさに『記憶を繋ぐ歴史』でもある。バスティーユから、あのフランス大革命ははじまりナポレオン3世のパリ大改革までがこの都市軸に見られるのだ。そしてこれらの残された遺構は歴史の変遷を乗り越えて現代の社会と常に繋がって活かされいることにその理屈を超えて多くの人が敬服せざるを得ないのだと思わずにいられないのである。

今井 資料

武田有左公園の緑の景観と繋がれた空間
武田有左

空間をどの様に繋げて行くのか・・・建築の設計においては根源的な問いである。外部と内部、そして内部空間を構成する諸室の間の繋ぎ方を工夫し、次に控える空間への期待感を抱かせることで、人々が心を弾ませ自ずと次の空間に足を運ぶように誘う・・・そこには、建築家の技量が問われる。

私が設計をした“石神井公園ふるさと文化館”では、緑豊かな公園を散策してきた人々を如何に心地よく施設に導き入れるか、アプローチの繋ぎ方に思案がなされた。
公園の緑に連続した壁面緑化や自然界のゆらぎに馴染む1/fで分割されたサッシュの採用、屋上緑化の緑を望むトップライト、そして南からの光を受けた公園の景色を映し込むガラススクリーン等、様々な演出要素をレイヤー状に重ねて空間を繋げて行くことで、施設へのアプローチにおける公園との連続感を生み出す工夫がなされた。
建築学会作品選奨の評においても「繋ぐ」という言葉を4回も重ねて評価をされている、この建築の周辺敷地環境との繋ぎ方について紹介をしたい。

宮田 多津夫 「俯瞰する場」が人を繋ぐ(宮田 多津夫

建築の祖形となる大事な要素のひとつは床である。屋根や壁があっても床が抜けたら建築にならない。今はバリアフリーの時代だから、フラットな床が流行りだが、その大事な床を周囲から少し持ち上げてみると見晴らしが良くなり目立つことから繋がりが生まれる。舞台は床を上げ視線を集中させ演者と観客を繋ぐ為にある。これを建築に持ち込む。オフィスリノベーションでは「俯瞰するキッチン」が効果的だ。オフィス中央にキッチンを持ち込み、床を少し上げると、人の顔と作業が相互に見えることで、コミュニケーションを誘発する。何かを作るところを見せることが異質な活力を持ち込み人が群がる。商業空間では、今は亡き銀座ソニービルはこの好例でDNA状のらせん構造が空間全体を俯瞰しながら繋でいた。昨冬に訪れたアアルトのアカデミア書店では、吹抜けから書物を読む幸せな風景が広がることで書物と人を繋いでいた。我が設計の熊谷ラグビー場は、フィールドの選手に手の届く観客席の高さを作ることでファンと選手を繋ぐ親しみやすいスタジアムとなった。

田口知子見えないものを繋ぐ
田口知子

「繋ぐこと」というテーマで建築を考えたとき、設計者としては、窓をあける、ガラスで壁をつくる、等見えることが「つながる」ことだと考えてしまう。そのような建築的な視点だけでよいのだろうか?「見える」ことが「つながる」こと、そんな単純な考えでよいのだろうか?という疑問から今回のテーマについて考えていたとき、「星の王子さま」の一節、「かんじんなものはいつも目には見えないんだ。」というキツネの言葉を思い出した。人間にとって大切なもの、かんじんな「見えないもの」とは何か?心の中にあるもの、感情、記憶、あるいは見慣れてしまった自然や身近な人間関係、あるいはもっと繊細な物理レベルの「見えないもの」かもしれない。そのようなかんじんなものを意識し、それらを育むような環境を、建築が提供できる可能性はあるのだろうか。日々の建築の設計で考えていることでもあり、難問ではあるが、そのようなものに向き合って設計を考えることが未来への希望に繋がると思う。

村上晶子人と蒼穹を“つなぐ”
村上晶子

今年のテーマの「建築の祖型」は、人と人を関係させる建築のあり方、建築の原点に想いを馳せています。今回のつなぐテーマから人と蒼穹をつなぐことに焦点をあてました。

建築は、人が自らを定位するための効用があります。目に見えないはかりしえないものと私たちをつなぐ建築を介在には“閾”空間が存在します。建築の初原のレベルでみると好例がローマのパンテオンにみてとれます。約9mの天窓があることによって、目に見えないはかりしれない大宇宙と人が建築を介して結ばれる空間が感じられます。万神殿であった会堂はキリスト教に支配された後もて生き残ることができたのは空間のもつ原点、つながりの天窓があったからこそだと思います。

今回は、人と蒼穹をつなぐ例として、私のアトリエで設計したカトリック神戸中央教会も紹介します。ここは、阪神淡路大震災から10年後に被災した3つの教会が新たにカトリック神戸中央教会として再建されたものです。震災直後からある社会活動神戸センターを支えつつ安らぎに導かれる聖堂空間を創ることが課題でした。聖霊降臨の記念日にひとつの教会となったことを記念して、聖霊に浸されるイメージを、天窓を通してつくっています。天窓からの強い光をやわらげるために、エキスパンドメタルの二重構造により光線をコントロールしています。外観は白煉瓦の質感のある清楚で優しい表情で人々を迎え、自然発色の緑青銅板葺きの動きのある大屋根が全体を囲んでいます。聖堂内部に入ると白煉瓦の壁に間接の色ガラスの光のみを写し空間に静けさを与えています。朝の光を受ける東側は青を基調、夕方の光を受ける西側には赤を基調というように、次第に空間の色調が変化します。ひとたび典礼の中で祭壇前に進み振り返る時、16枚のステンドグラスの窓が祭壇に向かうことで全てのダイナミックな光を受容できる空間を用意しています。

大倉 冨美雄裸でくつろぐことで「肌で繋ぐ」
大倉冨美雄

建築には体を軸にして、外に向かうものと内に向かうものがある、という勝手な思いがある。

外に向かうものは当然、視覚から見えるもの、動いていく時のいわゆる「動線」、それに、そこに出来る「空間」のこと。内に向かうとは、体感するもののことで、日照感、通気感、触感や体温感など。

外に向かうもの、つまり空間への意識については、建築家は誰でも語る。そこで体感するもの、特に肌に触れて水浴びしたり、湯浴みする感覚を拡大する場を考えてみたい。というより、そういう場を設計して、体感による感性を拡大する途を考えたい。「肌で繋ぐ」訳である。

願いは、裸で過ごせる自然に囲まれた、プライベートな浴室兼リラクゼーション・ルームだが、都会でそれは出来ない。せいぜい思い切ったミニ贅沢で、浴室回りに自由にカネを掛けた仮想浴室、あるいは願望浴室を考えてみることだ。マンションでも戸建て住宅でも、浴室の部分が外壁より3mほど飛び出し、壁も天井もサッシとルーバー、あるいはフィルターなどで外部と結ぶという構想である。絶対、うまくやれる。誰か、やる人はいないかな?

当日の模様

MAS第31回の模様1 MAS第31回の模様2 MAS第31回の模様3 MAS第31回の模様4

アンケート

ご参加された皆様、アンケートへご協力いただき誠にありがとうございました。
ご協力いただいた方の中から一部をご紹介させていただきます。

第31回アンケート1
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
多様な物の見方、考えを知ること。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
田口さんが「星の王子様」から「肝心なものはいつも目には見えないんだ。」という言葉に引かれた。
どうしたら良い建築になるかという答えを導くことの難しさを改めて感じました。
その他、今回のセミナーで感じられたことを、ご自由にお書きください。
パネラーの皆様が、利害関係にとらわれず、素直な意見を述べられていることは素晴らしい。
今後、セミナーで取り上げてほしいテーマがありましたらご記入ください。
建築物の品格
今後のセミナーについて、以下のどれかに○をつけてください。
また参加したい
第31回アンケート2
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
楽しいお話をきく
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
パリ街の風景
その他、今回のセミナーで感じられたことを、ご自由にお書きください。
先生方のお話が今回はわかりやすく(難しい時もあった)、リラックスしてきけました。
今後、セミナーで取り上げてほしいテーマがありましたらご記入ください。
無回答
今後のセミナーについて、以下のどれかに○をつけてください。
また参加したい

関連資料(PDF)

  • A4版(セミナー概要、アクセス方法など)
  • A3版(当日講演するテーマについて建築家からのメッセージ)

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