JIA港地域会日本建築家協会 関東甲信越支部 港地域会

JIA港地域会 活動報告

第30回 人と空間

第30回 MASセミナー
2019年3月23日(土)
14:00~トーク、16:00~懇親会
日本建築家協会
JIA館1F建築家クラブ
報告者
宮田 多津夫

すこし肌寒い土曜日の昼下がり、JIA会館に多くの一般参加者を集めMAS30が行われました。今回のテーマは「人と空間」。とても身近なテーマに見えますが共通点を見出すには難解なテーマでありました。その中で、「空間は人が意識して初めて現れるもの」は大事なポイントであり、「意識」に焦点を当ててみると空間が理解しやすくなります。
会場からは、「場と空間の違い」について質問がありましたが、「場」はPLACEであり、場所を示す説明的なもの。一方、「空間」は心理的なものであり、人の意識や体験、時間の積み重ねにより感じ方が強調されることもあります。空間には、充実感があり、恐ろしさがあり、懐かしさがあり、包まれる感覚があり、五感に満ちた魅力があるとみなさんが語ってくれました。人の感性に訴えるものが空間なのです。会場の皆さんからは、「日本橋の残された街の痕跡は人の記憶に残る空間。」「茶室の鹿威しの音としじまの関係性が空間を意識させる」そこには「日本人の空間」を意識させるものがあり参加者の感性の豊かさに教えられました。30回を迎えたMAS。そこは「建築家と一般人の交流の場」であり、一般の方々の考えに触れられる「建築家教育の場」でもあります。参加の皆様、ありがとうございました。

田口知子人と空間
田口知子

自分が学生時代影響を受けた象設計集団の笠原小学校と3年前に見た、ロレックス・ラーニングセンターの話をしました。今回の「人と空間」というタイトルで思ったことは、人に寄り添う小さな居場所のような建築。笠原小学校にはそれがあふれています。自然や空間を身近に感じられる暖かみとユーモアにあふれたデザインは、設計の楽しさに目を開かせてくれた素晴らしい建築です。一方で、SANAAの設計した、ロレックス・ラーニングセンターは、人が小さな点のようになっているような波打つ空間でできた壮大なスケール感の建築です。人間が小さな点になったような、巨大なマンタの腹にいるような空間は、偉大なものに対峙したときの喜びと解放感を与えてくれます。建築が、人に喜びを与える空間になるためには、人と環境への真の愛情と壮大なものへの憧れ、共に大切であり、建築の豊かさの神髄を考える貴重な機会になりました。

今井均建築と人のかかわり
今井均

私たちは日々無意識の中で建築と関わっている。それは多くの場合、空間という形の無いものとの関わりである。時になんらかの行為が建築の存在を意識させるときがある。それは建築に秘められたシステムに気ずいて感心したり、またその逆もあろう。こういったことは誰にも経験がある筈だが、だからといって多くの人が良い建築をもとめて自身の家くらいはよく考えてみようという想いには至っていない。

一歩踏み出して、創るという行為に自ら参加して欲しいと思わずにいられない。そのプロセスにこそ貴方は勿論、子供達や周辺の人などに様々な意識を植え付け、人生における貴重で前向きな経験となることは間違いないからだ。 先祖から受け継いだ土地に目的を鮮明にして観てみよう、あるいは人生の折り返し点で住まいとしてのマンションの一室に自身の考えを投影してみよう、、、人生のなかで一度くらい想いに火を付けて形にしようという行為、そのことこそが先の人生に希望や可能性をひろげることは確かなことのようである。自らつくるということと、所有することとは物理的な結果としてみると似ているがその人の意識と可能性については大きな隔たりがあることは間違いのない処であろう。

そして仕事上、少なからずそういった経験をもつものとして一人でも多くの方にお勧めしたいことである。

連健夫空間・場・物語
連健夫

これは当方が設計した住宅のリビングです。この建築空間には写真には人が入っていません。
リビングで夫婦がのんびりお茶を楽しんでいるシーンには、建築「空間」と人の関係があります。これはくつろぎの「場」であり、建築家は「場」を設計していると言えます。つまり行為をイメージしながら空間をデザインしているのです。荻窪家族レジデンスという地域開放型多世代シェアハウスを設計した時に、利用者参加のワークショップをしました。設計時においては、どのような空間が必要かを検討するワークショップ、施工時においては、塗装ワークショップやタイル貼ワークショップ、ウッドデッキづくりワークショップなどを行いました。このことにより、利用者にとって、建築がかけがいのないものになり、結果として手作り感のある親しみの持てる建築空間となります。出来上がった時、「ここは私が塗ったのよ」「この黒板は私のアイデア」といった具合に、様々な思い出を、空間が思い起こさせてくれます。つまり物語が感じられる建築になる訳です。換言すれば、建築家は「物語」(ナラティブ)を設計しているのです。

武田有左人々の場を創る
武田有左

建築を学び始めた当時、建築雑誌の写真は人影の無い美しい器としての建物の姿であった。人が使う空間としての建築と美しい作品としての建築の間で、その在り方を悩み続けた学生生活だったことを思い出す。その悩める建築学生として臨んだ卒業制作で辿り着いた設計パースには、大勢の人々の姿が描き混まれるものとなった。その時の思いが、後の建築創りに繋がっている。
銀座松竹スクエアでは、人々が佇む大階段。二番町ガーデンの屋上では、新しい仕事の場としてオープンエアーオフィスの提案が成された。また、現在取り組んでいる軽井沢の別荘では、敷地に広がる旧軽の自然と一体化する中で、滞在者が心から安らげる空間を創ろうとしている。プレゼンテーションをしたパースには、この空間の主であるクライアントご夫婦の姿がしっかりと描き込まれて居る・・・建築は常に人のための器であることを忘れてはならない。

宮田 多津夫 「人に寄り添う空間」とは(宮田 多津夫

建築家は、自分の権威や名声や設計理論を表現するために「空間」を作ることもある。一方、真面目な建築家は、「人」を思い空間をつくると言いたかった。設計は、法規と経済と技術の産物であるが、「人に寄り添う」ことで制約を乗り越えた新たな空間が生まれてくるのだ。超高層建築は権威の象徴であり、白いボックスは建築理論の産物。人に寄り添う空間として伝統的な軒下空間が思い浮かんだ。深い庇は、春の陽だまりを作り、梅雨をしのぎ、灼熱の太陽から身を守るやさしい空間である。日本の風土に根差した空間がなぜ消えてしまったのか。敷地の制約か、建築家の志向か。そこに日本の建築家の課題がある。
フィンランドでは、都市が人をやさしく包み込む。建築は調和を考え主張は少なく100年間変わらぬ街並みの中に人を包み込む。12月は6時間の日照の中でも、豊かな生活を支える内部空間がある。照明も家具も素晴らしく、すべて要素がやさしく人を包む。新しい市立図書館を訪ねるとそこは木に包まれたワンフロアーの空間の中に、子供たちと大人が共存していた。「人と空間」の豊かさを羨ましく思う。

大倉 冨美雄「難しい判断」余話
大倉冨美雄

アンケートで、「『主体と客体』についてもっと聞きたかった」という方がいたが、確かに解説不足だった。これらはいわば哲学用語で、その実態把握にはいくつかの具体例が必要だった。この分類は、会場で示した科学者と芸術家の例のように職能から見て判断する時に役立つと共に、日本人の本質を問う時にも役立つかも。

例えば、自分の想いだけで行動を決めるのでなく、周りの意見を聞きながら、それらに逆らわないように決める、ということは既に「客体的な」判断である、というように。それでも、自分で判断したのだから「主体的だ」と言う人も居るだろう。この場合、多くは「客体側が主体側を飲み込んでいる」というスケールの差を忘れている。「客体側」が一般的に理解しやすい社会通念であることが多い以上、世の中を変えるような新発想は生まれにくいし、受け入れも難しい。今、日本人に問われていることは、この大変革期に社会通念そのものが問われていることにどう立ち向かうか、ということだろう。その意味で真の「主体性」が問題になるわけだ。

この落差への認識が無い、又は弱いとすると、ある職能の本質(「建築家」とは言わないが)と、そこにある創造者としての深い悩みは判らないかもしれない。

村上晶子心理的空間と物理的空間
村上晶子

シリーズ【「建築の祖型」を考える】も4回を迎えました。超越的な起源をもちこの世の初めに啓示された慣例の規範と行動の規範、人と人を関係させる建築のあり方、建築の原点という視点から、今回のテーマ「人と空間」を鑑みて、『心理的空間と物理的空間』について話しました。

空間は直接触れないものですが、現実に人間に確実に作用する建築になくてはならないものです。建築は何らかの物質的な要素(材料・フォルム)によって空間という目に見えない非物質的なもので担保されます。物質的な建築要素と空間の関係は地と図の関係であり、モノと空間は不即不離の関係といえましょう。

現代は、物理的空間と心理的空間をめぐって、心理学における空間表象研究や環境が人間に影響する研究など多岐にわたります。文化人類学者エドワード・ホールの「パーソナルスペース」=身体のまわりにある距離体(無意識の「なわばり」)の研究もその例です。距離感の差は個人差と生活環境、文化の差によっても違いますが。表層の物理的距離が深層の心理的距離に及ぼすことを具体的な数値で表現していることは興味深いものです。

空間は人間が五感で知覚したときにあらわれるものであり、イメージに自らを投影して実在の空間を探すことが可能になります。設計とは心理的空間を現実化することであり、逆に物理的な空間は人間に多くの影響を知覚させる表裏一体のものだといえましょう。建築空間を創ることとは、言葉を話すことに並んで、人が自己を定位することであることです。今回はその例として私が最初に設計担当したサレジオ学園の風景をお示ししました。

当日の模様

MAS第30回の模様1 MAS第30回の模様2 MAS第30回の模様3 MAS第30回の模様4

アンケート

ご参加された皆様、アンケートへご協力いただき誠にありがとうございました。
ご協力いただいた方の中から一部をご紹介させていただきます。

第30回アンケート1
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
空間をどのように表現されるか、認識されているか、お話を聞いて学ぼうと思って参りました。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
建築家側の気持ち、考え方が聞けて良かったです。空間・場・物語がうまれていくのですが、益々、良き場、快地良い空間を創っていただきたいと思います。
その他、今回のセミナーで感じられたことを、ご自由にお書きください。
先生方のお話をもう少しうかがいたかったです。
今後、セミナーで取り上げてほしいテーマがありましたらご記入ください。
空間と響き
今後のセミナーについて、以下のどれかに○をつけてください。
また参加したい
第30回アンケート1
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
多様な視点からの考えを伺うこと。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
これから先、建築はどこへ向かって進んでゆくのだろうか。
その他、今回のセミナーで感じられたことを、ご自由にお書きください。
無回答
今後、セミナーで取り上げてほしいテーマがありましたらご記入ください。
建築は、いかにしてライフ・ワークスタイルを建物に創造するか。
いわゆる「マンション」の未来像(あるべき姿)
今後のセミナーについて、以下のどれかに○をつけてください。
また参加したい
第30回アンケート1
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
人と空間のつながりについての様々な御意見を伺いたかった為
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
・「場」という意味
・「感じるものと物」→「いいものが残る」
その他、今回のセミナーで感じられたことを、ご自由にお書きください。
様々な御意見が聞けて、建築専門の人だけでなく分野の違う意見が聞けて参考になりました。
今後、セミナーで取り上げてほしいテーマがありましたらご記入ください。
・環境、五感、人のつながり
・地域とのつながり
今後のセミナーについて、以下のどれかに○をつけてください。
また参加したい
第30回アンケート1
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
建物を築られる設計される建築士の皆様の考え方をお聞きしたく参加しました。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
人のために建築があるという基本を再確認できました。
その他、今回のセミナーで感じられたことを、ご自由にお書きください。
無回答
今後、セミナーで取り上げてほしいテーマがありましたらご記入ください。
長い時を経ても尚、愛される建物について
今後のセミナーについて、以下のどれかに○をつけてください。
また参加したい

関連資料(PDF)

  • A4版(セミナー概要、アクセス方法など)
  • A3版(当日講演するテーマについて建築家からのメッセージ)

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