JIA港地域会日本建築家協会 関東甲信越支部 港地域会

JIA港地域会 活動報告

第24回 都心に住まう・集まって住まう◯と×

第24回 MASセミナー
2017年4月8日(土)14:00~トーク、16:00~懇親会
日本建築家協会、JIA館1F建築家クラブ
報告者
武田有左

都心回帰の流れのなか、都市部での人口が増加に転じて来ている現状がある。そこには、良かれ悪しかれ、都心の大型・高層マンションの建設ブームが、これを後押ししている状況が読み取れる。一方、複数の住人達が一つの建物を共有して住まう住スタイルの歴史は、日本人にとっては決して馴染み深いものとは言えない。寄り添って住まう形態も、様々な形が想定されるだろう。

集合住宅に集って住まう、そしてこれを管理することは、私達にとって未だ未だ未成熟な領域ではないだろうか。都心に住まいたいと望む人々に対して、我々建築家は何を提供できるのか。
MAS24では、集合住宅に皆で寄り添って住まうことに対するリテラシーの醸成や古くからの地元住民との関わり方等について、改めて考えて見たいと思う!

武田有左「都心に住まう・集まって住まう◯と×」(武田有左

限られた土地(容積)を全て専有して抱え込むことではなく、多くの人達が少しずつでも供用スペースとして提供し合うことができれば、そこに、一戸一戸では得ることが出来ない、新たな価値を持ったスペースを生みだすことができる。

またそこには、その自分達が大切に想う共有スペースを大事に護ろうとするコミュニティーが生まれる。

そして、もしそれが都市空間とシームレスに連続して行くことができたなら、都市の姿は大きく変わって行くことが出来るだろうに・・・。

今井均「集合住宅の◎とx」(今井均

一口に言って僕的には都市部における現在の大多数の集合住宅の在り方に落胆しているとしか言いようがない。

都市におけるものとなれば形式的に集合は自然のことだが不特定多数のための住居になるのだから設計者としてはすべからく社会的な要素を配慮したものになるはずなのに、その大部分は経済効果一辺倒の考えで計画されてしまっていると感じるからだ。

建築を考える要素として経済効果は大切な要因であることは当然であるが、僕の言いたい経済効果とはデベロッパーやその関係者に限った、それも一時的な経済効果にしか見えないところに大きな不満があるということだ。

ソロバンのはじきかたに問題があるのだ。建築を創るということの意味はその目的や状況において多岐にわたるものだが、間違いなく言えることはそこに長い時間にわたり人が関わるということである。建築が出来ることでそこに直接的に間接的にどれほど有効な良い効果を与えられるのか?

その最も基本的なところが形式的なものとしてしか捉えられていないところが全く残念である。一方で個人のクライアントを軸とした小規模の集合住宅(賃貸)の中には充分時間をかけて納得できるものとしているケースもみられる。

そのあたりに僕としては都市の可能性はまだ残されていると感じる。クライアントと建築家に生まれるシンパシーに望みをかけたいと思うが、皮肉なことに情報化社会のなかで本来の建築家の役割は稀薄なものとなっているようにも感じている。

田口知子「集まって住まう◎と×」(田口知子

集まって住む、ということは、助け合い、コミュニティーの形成、建築費の低減、公共サービスの受けやすさなど、機能面でのメリットが多い。ただし、高層マンションのような建物は、大地とのつながり、人のつながり、という点において問題も多いと感じる。

私の好きな集合住宅として、スイスで50年前に建てられたアトリエ5のハーレンジートルングなど紹介した。コミュニティーが生まれるような仕掛けや、集合住宅であるからこそ魅力的な空間、という設計があふれている。外部、共用部に対してゆるいつながりを持ったプランニングが集合住宅の醍醐味であると思う。

自分が最近、東京ガスと冊子を作った際提案した高齢者のための集合住宅の案を紹介した。廊下の側に土間と半共用部を持ち、テラス側にも緑が楽しめるお散歩テラスを設け、人のつながりをはぐくむ、回遊性をデザインした集合住宅だ。

また、映画「人生フルーツ」を見て、94歳の建築家 津端修一さんの生き方に、これからの高齢化社会における幸せな生活の形を見出す思いがした。建築をつくることは、人の生き方、幸せについて、深く考えることなのだと、あらためて認識する機会になった。

田口 資料1 田口 資料2

黒木正郎「MASセミナーの感想」(黒木正郎

集まって住むのが必然であるならどうすればよいのか、という実践的なご意見が多数で、集まって住むことに否定的な意見が少なかったけれども、集まらないで住むことができるならもっといいよね、と言い得るのかどうか、そのあたりを知りたかったと感じます。

一点、最も強力に記憶に刷り込まれたのは「ヴィンテージマンションの作り方」です。場所と建物と住民と管理、と言うことでしたか、今住んでいる自分の住まいをヴィンテージ化する計画を発動しようと本気で考えておりますが、 この4つのポイントはこの順に変更が難しいので、まずは管理に建築家が口出しするとどうなるか実践してみます。

それがうまくいったら「建築家が住んでいる共同住宅は買い!」ってことになって、わかりやすい本とか出したら引っ張りだこになるのではないかと。

村上晶子「都心に住まう・集まって住まう〇と×」(村上晶子

港地域会という特殊性から都心に住むということの利点に着目しました。この地域には、古くても大人気の集合住宅が所々に存在しています。ラテン語の「ぶどうを収穫する」ことが語源で当たり年ワインのことを言うVintageが転じた名品や、年代物の希少品をさすことばを使った和製造語としてヴィンテージマンションという表現があります。

これに認められるには、いくつかの条件があります。知名度高く、住むこと自体がステイタスであること。住民に愛着があること。上質な共用部 質感と耐久性。管理のクオリティー等々です。

今回はそのなかの、ビラシリーズと呼ばれるマンションを紹介しました。このシリーズは1964年の東京オリンピックの頃からです。興和商事の(故)石田鑑三氏が欧米の住宅事情を視察して参考にしたいと思うものがなかったことから自分たちでまったく新しい住宅を作るしかない。最高のものを作ろう。20年先のことをやろうということで始まりました。坂倉建築研究所や有名建築家による設計、『LIFE』誌や欧州雑誌にも紹介された。時代を先駆けする画期的な試みや斬新なデザイン、神宮前エリアという人気の高い立地にあり、物件価値が下がらないことなどで今でも定評があります。

このように、建築家を上手に使うことで価値の創造が生まれるということをここでは申し上げたく申し上げました。

ヴィラ・ビアンカ
日本初の都市居住型集合住宅  米「LIFE」誌などの国内外の雑誌に紹介
村上 資料1

ヴィラ・モデルナ 都市居住、SOHOの概念となった作品
村上 資料2

司会:湯本長伯

テーマの難しさを逆手に取る

本番前に集まった議論の場でも、このテーマを1時間半で行うのは難しいという意見が続出した。武田さんの提案意図は、「都心集合住宅でもパブリック部分を充実し、生活を豊かにする 住民意識が伴えば悪くない」「もっと都心に住み、通勤に苦しまずに生活を楽しむことを皆で考 えませんか?」という処にあったと思われるのだが、「住」「都市」「都心」等々に敏感に反応するのは、やはり建築家の集まりである。「住」問題の背景には、「少子化」「高齢化」や「社会資 本の減衰」等々、大問題が山ほどあり深刻でもある。且つ現状のベースを成す戦後集合住宅は、庭もロビーも無くただ個々の住戸が一列に並ぶ、正にpigeonbox(鳩箱)そのものだった。 そこで事前打合せでは、「都心」「港区」「集住」「都心居住」「悪い一般解より良い特殊解」に加えて、「建築家の役割」と「良い実例」に問題が絞られた。悪い事を考えれば心配が尽きない。 パネルの発言要旨を見て戴ければ、当日の内容が良く解る。

テーマの今後

今回の MAS セミナー自体は、大変良いプレゼンと良いディスカスが出来、良かったと思う。 厳しい状況の中でも、建築家の職能や良いクライアントとの協働により、眼を見張るような良い生活環境が創られることを(少しは)示せたと思う。しかし日本でも世界でも、人類の住環 境の未来は決して明るくない。アジア・アフリカでの人口爆発、水や食料の絶対的不足、教育の不平等、それらをも背景とする社会不安、治安の崩壊、戦争の勃発...、それらが行き着くのは劣悪な住環境である。第二次世界大戦後に世界中で皆が、「人類は何処に住むか?」を必死に考えたことを思い起こしたい。震災復興・同潤会アパートという良い先例もあるが、戦災復興が余りにも夢の無いものだったことは、映画『人生フルーツ』にも明らかである。しかし手は有る。必ず在る。良い先例もある。いま先進的な都市も含めて、日本の彼方此方で住宅地を含む地域再編が進んでいる。縮小せざるを得ない我々の社会と生活地域に対応し、「もう一度皆で何処に住むべきかを考え、多くは都心に回帰し集まって住むことを問い直し、良い生活環境を考え提案する」ことが、どうしても必要だと深く考えさせられたセミナーだった。

湯本 資料

懇親会

懇親会風景

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