JIA港地域会日本建築家協会 関東甲信越支部 港地域会

JIA港地域会 活動報告

第22回 景観と屋外広告

第22回 MASセミナー
2016年6月4日(土)14:00~トーク、16:00~懇親会
日本建築家協会、JIA館1F建築家クラブ
報告者
宮田多津夫

毎回のことですが、MASはワークショップ的な議論を展開する場であり、登場する地域会メンバー、参加者にとり多様な意見をぶつけ合うことが可能な場である。今回第22回目のMASセミナーが6月4日13:00~15:00にJIA会館一階ホールにて開催された。冒頭に、今井会長より、港地域会野老初代会長の御子息である野老 朝雄(ところ あさお)氏がオリンピック・パラリンピックのエンブレムデザインに当選したことを説明し、故人の御子息の栄光を祝福した。

さて、今回の議題は「景観と屋外広告」であり、まずはじめの発表は、村上さんがスペインの郊外にある大きな闘牛の屋外サインを引き合いに出しながら、優れた広告が、スペインの文化遺産として残された経緯を述べ、日本人とスペイン人での規制に関する行動と判断の差を示した。「オズボーン」の闘牛の広告は規制を避けながら、それでも見える大きさを追求した結果、遠くで見ても理解できる巨大な闘牛を生み出し、それがスペインの文化となったことを述べた。
次に、今井さんがヨーロッパの街並みの風景としてパリを引き合いに、規制を守りながら景観を維持している現状を示した。特に、フランスの国民性から、景観や公告サインについてきちんとした話し合いのもとで、筋の通った建築ができ上がっていることを述べた。

田口さんは事務所がある六本木界隈の風景や公告サインを引き合いに日本の広告に埋もれた汚い風景から、川越の蔵造りやローデンブルグの美しい街並みとの違いを考え示した。
大倉さんは、イタリアでの経験から、ミラノのガレリアでの広告規制を述べ、マクドナルドさえ、自分のロゴサインを主張せずに景観に合わせた色彩にしていることを示した。
宮田は、新橋・有楽町駅前の無秩序な広告の反乱の景観と、丸の内や八重洲の景観規制されたサインの違いを示し、やればできるのに、規制に対して放置された駅前が多いことを述べた。

その後、連さんの司会により、日本人のメンタリティと外国人のメンタリティの違いなどから、規制に対する意識や連帯感の違いが景観に対する意識の弱さに繋がっているのではないかというという考えに至った。屋外広告の氾濫は、法律での規制の弱さ、「ま〜、いいか」という投げやりな文化性、住民の景観への愛着などが大きく影響している。
会場からは、建築と広告は対立するものであるが、共存して美しい街並みをつくることが必要であり、ルールと関係者が見える形にすることが必要であるという意見があった。最後に「建築家としてやれるところからやっていこう」という今井会長の締めの言葉で、パーティーに移り、参加者と地域会メンバーで盛んな意見を交わし楽しい一日となった。

村上晶子「都市を特徴づける屋外広告」(村上晶子

村上 資料 「広告と景観」というタイトルにあたって、大都市のエネルギー溢れるシーンや東南アジアの猥雑である種魅力のあるシーンが頭をよぎりましたが、それをはるかにに越える強烈な印象が脳裏に残っていたものを思い出しました。それがToro de Osborne(オズボーンの雄牛)です。スペインを旅した方ならおそらく皆さん目にしたことがある巨大な黒い牛の看板です。高速道路を走っていると所々に闘牛の牛のようなものが見えてくるのが一体何なのかと気になって仕方がありませんでした。これは、1772年に設立されたシェリー酒醸造の会社が1956年に広告宣伝を開始した時に、黒一色に赤色の文字で「Veterano」と示してスペイン全土の主要な道路に設置したものです。当時は現在よりも小さかったのが道路から150m以内の広告活動を禁じる法律ができたため、高14mの巨大なものになった経緯があるそうです。さらに1994年には道路脇の広告活動が全面禁止されて撤去ということになったのが、国民の反応によってブランド名を塗りつぶして完全に黒一色の現在の姿になりました(2014年時点で91箇所)。裁判所が認めた理由が「風景の一部となり、美的・文化的意義を有している」「雄牛は社会の共有財産となった」ということです。これを広告と景観の関係で是か非かというのは難しい問題ですが、スペインの人々の心との共感を与えたデザインが文化と相まって親しまれた結果だと思います。稀なる例だとは思いますが、考えるきっかけとしてご紹介しました。

今井均「看板と建築の関係」(今井均

昭和初期頃までにあちこちで見られたホーロー看板はそのマテリアルが統一されて、大工さんが作った多くの街中の建築と馴染んでいたイメージがありました。それがいまでは建築のスタイル?も看板も個性豊かといえばそれまででしょうが全く自由気ままな展開となっています。大きな看板をだせば、顧客が増えるということにはならないことは誰しも解っている事なのに街の美観や自身のイメージなどそっちのけで大きく目立つ看板を我先にだしているとしたら、やはりもっと規制をすすめなければ成らないとも思います。確かに規制すれば、その分ダイナミズムは失われることにもなりかねませんが、もし貴方のお店やオフィスの隣に醜く大きな看板が出され隣人に大きく関わって来たらどうでしょうか?パリの街は表通りだけでなく裏道に至るまで魅力的な街路が形成されているといいます。そういえば、ここではパンを生地から作っていない処はパン屋としての看板はだせないということのようです。こういった仕組みこそが看板にも大きく反映されていることが、本来の街並に大きく関わっているといえるのではないでしょうか。

田口知子「街並みをつくる看板デザインとは?」(田口知子

田口 資料1
田口 資料2
私は、東京の中でもワースト5に入る汚さだと感じている、六本木交差点の風景を考えました。六本木交差点の雑然とした光景は、いったい何が原因なのか、観察してみました、特に、外苑東通りは幅14mの車道の両側に1.5~2mの狭い歩道にガードレール、電柱が立ち、袖看板が色とりどりに自己主張をしている風景は日本の町として残念な気持ちになります。看板意匠の猥雑さ以上に、建物が個性的で派手なものが多く、統一感が無いことがこの町の風景を壊す大きな要因でもあると感じました。一方で、六本木といえば再開発です。ヒルズ、ミッドタウンと、話題の再開発が完了し、町がクリーンになったと感じるかもしれません。しかし世界ブランドブティックが並び、一元管理された再開発の町は、町としての生きた何かが欠けていると感じます。生きた魅力的な街とは何か、考えてみました。町は、そこに住む人による多様性が表現されつつ、全体に統一感があること、住む人の営みが美しく表出した風景こそ、町の魅力だと思います。たとえば川越一番街。蔵の町として、商店街を形成し町並みをデザインで再生し町全体の活気と魅力的を取り戻した町です。看板も建築にあわせて江戸時代の風情を残してデザインされ、お店のディスプレイも店主が趣向をこらしています。

ドイツのローテンブルグという観光都市の美しさについても語りました。この美しい街並みには、看板も芸術品のようにデザインされています。700年前変わらない街並みを守り続けた住民の力、自ら守り続けた町の風景と維持しつつ更新する伝統。住民が協調し維持し、育てる町こそ、持続する景観を美しくするのだと思いました。

大倉冨美雄「景観の問題」(大倉冨美雄

屋外広告を含め景観の問題は、あらゆる分野の総合であり、評価は簡単なことではない。経済学部出身、建設省で8年、上からの都市問題扱いに疑問を抱き、ハーバード大デザインスクールで都市計画を学び、8年ほど途上国を含め地域プロジェクトに参加。その後、起業した女性の話を聞いた後では、景観問題への適性は建築家だけではないと思わずにいられなかった。むしろ、建築家の方が全体的視野を欠いているという意識に捕らわれた。ただ、彼女のプレゼンは、会議風景、景観の現状風景、分析地図以外はすべて文章で、どこをどうしたというのは「こういう条件で、やってもらった」として頼んだ結果を見せるに留まった。ここに状況把握、条件整理、人脈構成、経理判断へのプロ化と、クリエイティビティへのプロ化への落差を感じざるを得ない。個人でこれらを全体把握するのは天才的な能力を必要とするだろう。協同作業が必要であり、表現者への目線評価も問われると思われる。ただし、港区は可能性が在り過ぎ、かなり特殊であることを承知しておく必要がありそうだ。

宮田多津夫「屋外広告と景観」(宮田多津夫

景観が守られている場所と、混乱している場所の違いを示しながら「屋外広告と景観」の規制面からの違いを考えてみた。まずは、赤坂見附の地下鉄出入口前のパチンコ店看板と青山通り沿いの整った景観の違いを示し、駅前などの商業性が強くなると広告が氾濫してくる現象を示した。その最たる例としては、世界に名をとどろかせている秋葉原、サラリーマンの街である新橋駅前のSL広場前の景観では、看板だらけで規制が存在していないように見える。おそらく地区協定などはないものと考えられる。

宮田 資料1

一方、都心部の中で、整理された景観が存在する場所がある。それが東京の中心である大手町、丸の内地区である。ここは三菱地所が開発を進めている日本一のオフィス街であるが、ここには地区協定で看板を規制している。その結果、美しい街並みが残り、植栽やショップフロントが美しい街並みが育っている。面白い景観としては有楽町駅前から見た東京国際フォーラムとビッグカメラの姿の差である。景観を守っているのは東京国際フォーラム。一方ビッグカメラ[旧よみうりホール:村野藤吾設計]は秋葉原と同じような看板だらけ。日本でも大資本の力が入ればできることもあるのだが、前途は厳しい。混乱した駅前を変えることはできるだろうか。

宮田 資料2

連健夫「広告で覆われる街をどう改善すれば良いのか?」(連健夫

連 資料1新宿駅前のビルの多くは広告で覆われており建築が広告化している。渋谷駅前にはビル自体に画像を映すことができ、様々な情報を発信しておりビルがメディア化している。社会学者は住宅のリビングの機能が街に出たと解釈できるとも言っている。歩道で問題なのは、何といっても置き看板であろう。歩くのに邪魔になる。昇り旗広告は赤坂のまちづくり協議会では赤坂の雰囲気に合わないと考えている。このように広告は都市のノイズになっているが、それを街のルールによって規制し、美しい景観を作ろうとしている地域がある。表参道や銀座などである。元町では店の看板はおしゃれな外照式を奨励している。

連 資料2

それぞれの街には○○らしさがあり、それに合った広告が求められるのである。赤坂通りまちづくり協議会では、建築計画側が事前に建築のデザインについて説明する仕組みを作っており、そこで協議調整をしている。法的拘束力はないが、この機会を通して、建築側は○○らしさとは何か考え、できる範囲で変更・調整をするケースも出てきている。これも一つの方法である。単に広告の大きさ、色、方法などを規制するのではなく、○○らしさについて意見交換をする機会をつくるやり方は、心の通った柔らかな規制と言えよう。

アンケート

ご参加された皆様、アンケートへご協力いただき誠にありがとうございました。
ご協力いただいた方の中から一部をご紹介させていただきます。

セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
異なった体験・視点に基づくお話しを聞けるのが楽しみです。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
港区で「街造り・・・協議会」という組織が区という役所に入り込んでいる事が興味を持てました。
その他、今回のセミナーで感じられたことを、ご自由にお書きください。
無回答
今後、セミナーで取り上げてほしいテーマがありましたらご記入ください。
特になし
今後のセミナーについて、以下のどれかに○をつけてください。
また参加したい
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
新たなことを知ること
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
人々は、資産価値が高まると知ると看板などに対する実施方法を改めること。
その他、今回のセミナーで感じられたことを、ご自由にお書きください。
意見を戦わせないことが、このセミナーの良いところだと思います。
今後、セミナーで取り上げてほしいテーマがありましたらご記入ください。
日本人の家に対する価値観とは
今後のセミナーについて、以下のどれかに○をつけてください。
また参加したい
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
専門家と市民の対話、建築について市民の感覚と建築家の設計思想(考え)に大きな隔たりがあると感じます。
MASセミナーを通して市民の意識・知識を向上し、建築家の翻訳力向上に期待したい。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
(お話しを聞けなかったので)
その他、今回のセミナーで感じられたことを、ご自由にお書きください。
広告に対するマイナスイメージを持つ方が多い事を確認できた。
今後、セミナーで取り上げてほしいテーマがありましたらご記入ください。
・建物の高さの影響や意味(思想的、経済的、都市計画として)
・建物のvolumeと配置が周囲に与える影響(日影、風邪など)
今後のセミナーについて、以下のどれかに○をつけてください。
また参加したい
セミナーに参加されるにあたって、どんなことを期待されて来られましたか?
仕事が延びて15:30着で、お話はほとんどお伺いできませんでした・・・。
今日の内容を聞いて、共感したこと、興味をもったことをご記入ください。
無回答
その他、今回のセミナーで感じられたことを、ご自由にお書きください。
この問題は社会学的(含 地域社会)、行政的、民俗学的、メディア論的、マーケティング的・・・と様々な側面から捉えられると思います。
遅刻してきたので、議論の様相は判りませんが、私論としては、コツコツと民衆に「気付き」を与えていくしかないと思います。
話が出たかもしれませんが、信州の安曇野は看板規制で成功していますが、それも地域住民、地域産業と同調できたからです。東京の場合、産業側は絶望的です。人々から攻めるしかないと思います。本気で成果を出すには大変ハードルの高いテーマだと感じます。あるいは、”特区”を作ることから・・・?
今後、セミナーで取り上げてほしいテーマがありましたらご記入ください。
無回答
今後のセミナーについて、以下のどれかに○をつけてください。
また参加したい

関連資料(PDF)

  • A4版(セミナー概要、アクセス方法など)
  • A3版(当日講演するテーマについて建築家からのメッセージ)

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